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 見合いの日、香澄は母の着物でホテルへと向かった。

 広い控え席には数組の親子がおり、それぞれが順番の時刻を待っていた。

 どの家族もいかついのでは、と思ってしまうほど着飾っていて、風貌からしてもお金の匂いが嫌でもしてくるようだった。

 冷たい目、拒絶する背中。

「――あら、見て。また誰か候補者が来たみたいですわ」
「――やぁねぇ、母親からしても品のなさが伝わってくるわあ」

 傲慢な態度、見栄、他人を傷つける言葉だと気付きもしない口調。

 香澄は何もかもが嫌になった。場違いな会場にいるのだと思うと、次第に恐怖心も増してきた。移動して椅子に座る頃には、顔は血色を失い、手足は冷たくなっていた。

「人間の品定めなんて、馬鹿馬鹿しいわ」

 母は、今にも逃げ出したいような口調ながらそう強気で呟いた。

 香澄も気持ちは同じだったが、違っていたのは、その根にあるものが怒りではなく、恐怖だということだった。

 強くなった不安が、最悪な未来を形成するいつもの癖が出てしまっていた。