『成長は人それぞれなのだから、焦らないでもいい』

 そう言ってくれた両親や社員たちの言葉には、救われていた。

(ここ以外の居場所なんて、私は要らないの)

 香澄はどうかこの一時が、少しでも長く続くように祈るばかりだった。

       ◇◇◇

 香澄が二十歳を迎えた三月の下旬、またしても桜宮家から見合いの話しが舞い込んで来た。

 直に電話を取った南原が、慌てたように声を潜めて「社長っ」と半ば叫んだ。

 営業に出ている社員を除いて、小さな会社は騒然となった。

 電話の相手は、大手企業の代表取締役を務める桜宮康徳本人だった。彼は社交辞令で香澄の二十歳の祝いを簡素に述べたあと、本題を語った。

「次男にも身を固めてもらおうとしているが、恥ずかしいことに、未だに婚約も出来ん。藤野家は家も安定しており、お嬢さんも非常につつましい女性だと窺った。是非、見合いに出席して欲しい」

 話によると、桜宮晃光は仕事に優れているものの、婚約すること事態無駄だと嫌っている節があるらしい。