涼しさを覚える春の季節だった。

 内陸地にありながら、隣接する県の美しい海が一望できる高台の高級ホテル。

 その異常かい近くにある『桜宮様』と記載された和室で、二十八歳の桜宮晃光と二十歳の藤野香澄のお見合いは行われた。

 晃光は、母親の美貌と父親譲りの賢さを持った男だった。現在二十八歳で、すでに実家の持つ大企業の副社長に収まるほどの実力を持ち合せていた。

 私生活や仕事にも徹底した判断力を持ち合せており、美しい横顔は常に鋭い眼差しを携えていた。

 桜宮家では長男、三男共に早々と婚約が決まったが、晃光は頑として仕事以外の執着を見せなかった。

 兄弟共に容姿端麗で資産家であり、長男は新しい事業を始めていて、三男は海外支店で着実に実績を積んでいる。

 将来、長男と共に桜宮家を支えていく晃光に求婚する令嬢は、後を絶たない。

 晃光は、そんな女性たちを一瞥するような男だった。大柄で温厚な長男、やんちゃだが女性に対してひどく優しい三男の欠片さえもないその態度は、現桜宮家当主を窺わせるほど冷徹な印象を与えていた。