魂の恋人ーー十年前に出会った吸血鬼が求婚してきましたが、断固拒否です。

「おいたはあかんヤデ?」

 そう言った鬼神様もとい狐は、飄々と鬼二人を相手に戦っている。

「神様、頑張ってくださーい!」
「カミサマ、応援してるぜ!」

 そんな甘城と阿久田の応援を聞いて周りの者たちも“鬼神様”を応援し出した。

「僕、子供たちを引っ張り上げてきます!」
「おっしゃ、俺も行くぜ」

 甘城と阿久田が子ども達の元へ駆け寄って行く。私だけ棒立ちなのもどうかと思い、二人の後を追った。
 子ども達は全員で十人。既に親の手で引き上げられた子もいる一方で、助けに入った大人もろとも沈んでしまった人もいるようだった。
 まだ一部でも体が出ているのは四人だった。

「多分だけどよ、これ地獄の入口っぽい力を感じるんだよなー。力は使えねぇけど入れそうだし、行ってくるわ」

 ニカっと笑いながら手をあげた阿久田が黒い渦へと入っていく。

「真樹、気をつけて!」

 甘城は阿久田に手を振り返した後、子どもに優しく「頑張って」と声をかけながら体を持ち上げている。
 私はあまり子どもに愛想良くできるタイプではないので、申し訳ないが子どもの体を黙って引っ張った。
 なかなか持ち上げられず苦戦していると、残りの子どもたちを引っ張っていた大人が急に手を離してしまった。

「……本当に子どもたちを救えるのか?」

 え? と思わず私の手が止まる。

「そうよ。あの鬼神様だって、ちゃんとあの鬼たちを倒せるのか怪しくない?」
「ああ、鬼神様なんて所詮は姿を模しただけの人間なんだ。信じて大丈夫なのか?」
「……無理よね、私たちには。君たちも早く諦めた方がいいんじゃない?」

 唖然としていると、大人たちは子どもたちの手を離して背中を向けてしまった。

「あの……! 待ってください! どうして、諦めちゃうんですか!?」

 甘城が大きな声で呼び止めようとするが、大人たちは振り向きもせずに鳥居の方へ歩いて行く。

「……やっぱり、無理なんじゃないか」
「ああ……鬼神様は苦戦しているし……」
「そうだ、無理なんだよ。鬼神様では」

 無理だ、無理だ、無理だ!

 周りで傍観していた者たちが狐に向かって叫び出した。
 まるで誰かに言わされているみたいに、同じ言葉が響き渡る。

 無理だ! 無理だ! 無理だ! 無理だ!

「何なのよ、これ……おかしいよ」

 さっきまで、鬼神様が助けてくれると信じて皆が応援していたはずなのに、今は誰もが鬼神様を疑っている。
 それに、狐が徐々に鬼たちに押されているような気がした。

「……これって、鬼の仕業?」

 狐が、こちらを振り向いた。

「おっ、朱莉ちゃんも気付いたんか。そや、黒鬼は()。黄鬼は掉挙(じょうこ)悪作(おさ)ヤデ」
「いや、ヤデって言われても分かんないんだけど……」
「あんま説明してる余裕ないの分からんか?! 詫びの酒を所望するヤデ!」

 余裕ありそうだな。無視していいかな。

「おーい、こら! 朱莉ちゃん無視せんといて。手短に説明するで、わしを応援してほしいんじゃ」
「は?」
「いや、ほんまほんま。大真面目なんヤデ」

 何のこっちゃ分からないが、とりあえず狐を応援したらいいのだろうか。でも、私もこの子を引っ張るので精一杯なんだけど。
 そう思いながらも出来る限りの声を上げた。

「神さまー頑張ってー! お酒はないけど応援してるからー!」
「ぼ、僕も応援します……! 神様ー! 頑張ってくださーい!」

 体感10人分くらいの声援を送ると、狐は少し張り切っているように見えた。しかし鬼たちの猛攻は止まることを知らず、反撃されるのだった。

「くっ……あかん! 2人とも伏せるんじゃ……!!」

 狐は鬼たちに御幣を向けて何かを放ったが、それを跳ね除けるように鬼2人は同時に金棒を振り上げて地面に叩きつけた。

「奥山さん……っ!」

 甘城が私に覆い被さる。

「くっ……」

 鬼の金棒は止まらなかった。
 ドスン、ドスン、と何度も地を叩きつけ、不快な揺れと音が神社に轟いていた。
 地面から伝わる振動で体が痺れる。

「うっ、立て、ない……」

 地に這いつくばる私と甘城の一方で、狐は御幣を構えて、何とか地に足をつけて立っていた。しかし、鬼たちの怒涛の攻撃により、狐は吹き飛ばされた。

「かはっ……!」

 本殿の柱に打ち付ける。狐はよろよろと立ち上がり、鬼の仮面の下から口内の血を吐き捨てた。

「自分の体じゃないとはいえ、堪えるのぅ……」

 狐は首をポキポキと鳴らしながら、御幣を構えた。
 すると、鬼たちは急に仮面を投げ捨てた。先ほど狐が言っていた通り、黒色と黄色の鬼だった。

「おうおう。お前、神社(ここ)の神ではないな?」
「わいらの正体に気づいとるようや」
「……ああそや、この感じ、白狐かいなあ?」

 黄色の鬼がぐるんぐるんと金棒を弄びながら、目を見開いた。

「もういっちょ喰らってもらおうかぁ!」

 黄色の鬼が金棒を持っていない方の手を上げると、もう一本の金棒が出現した。

「ハァッ……!!」

 太鼓を打つように、黄鬼は金棒を地面に二度叩きつけた。
 しん、と一瞬の静けさの後にぽつりと甘城が呟いた。

「……逃げなきゃ」

 甘城は急に立ち上がった。

「僕、こんなところにいられません!」

 私は咄嗟に甘城の手を掴んだ。

「どうしたの。行っちゃダメだよ」
「僕は逃げるんです! 離してください!」
「きゃあっ!」

 私は甘城に体を押され、尻餅をつく。
 その隙に甘城は鳥居の方へ一目散に走って行ってしまった。

 また鬼の仕業……?

 甘城だけではなく、我先に逃げようとする人々で気付けば鳥居のあたりはごった返しになっていた。

「逃げるのは俺が先だ!」
「いや、私よ!」
「もう! どいて!」

 人々の怒声や悲鳴はこちらまで聞こえてくる。すると、陽気な鬼の笑い声が聞こえてきた。
 
「ふははは! さあ、キツネ。“信仰”してくれる人間はおらんくなったぞ。まだその体で戦うつもりか?」
「んーはて、どうしたものかのぅ。わしになったところでナァ……」

 狐は困ったように頭を掻いている。