神社の入口までの道に屋台が立ち並ぶ。かき氷、ベビーカステラ、フランクフルト、焼きそば、りんご飴。様々な食べ物の匂いが入り混じり、屋台の熱気や人々のざわめきが空へと上がっている。
「うわあ、どれも美味そうだなー! 焼きそばも食いたくなってきたぜ」
「真樹、色々買って半分こしようよ」
いいぜ、って親指を立てて返事をした阿久田を見ながら、私は「仲がいいんだな」なんて感じていた。
そういえば、2人はどうやって知り合ったのだろう? 甘城は以前、保健室で話していた時は「ようやく人間界に戻ってこれた」と言っていたし、阿久田のほうも冤罪で人間界に追放されたということだったし、二人が出会ったのは割と最近のことではないかと予想した。
聞こうかと思ったが、二人は焼きそばの列に並びに行ったので、まあいいかと口を結んだ。
さて、私は何を食べようかな~と辺りを見渡していたら、腕を引かれた。
「なア~一杯だけ、一杯だけでええんヤ」
未だ諦めていない狐が何か言っている。
「あのさ、一杯だけっていうけど、お祭の飲み物も食べ物も高いのよ」
「わし、神様ヤデ。きっとご利益あるヤデ」
「どんな?」
「うーん、そうじゃなァ」
考えてる時点でご利益なんてないのである。この狐は本当に神様なのかと疑いたくなるが、そんなことを言えばグチグチと何か言われかねないので黙っている。
「あっ、かき氷」
私は列に並びに行く。狐はようやくねだってこなくなったので、私は話すわけでもなくスマホを弄りながら待っていた。
じゃり。
前に進んだ時に私は何かを踏んだ。
「何これ?」
「ン? これは頭陀袋ヤナ」
狐が拾い上げて中を見る。
「ちゃんと六文銭が入っとるヤデ」
「六文銭?」
「亡くなった人が三途の川を渡るための渡し賃じゃな」
「ふうん」
聞いておいて大して興味がない私は雑な相槌を打つ。
狐はそんな私のことを咎めるわけでもなく、六文銭を一つ取り出して表裏を確認した後、頭陀袋に戻してポケットにしまっていた。
(そんなもの拾ってどうするんだろ。狐のことだから、盗んだまであるけど……まあいいや)
私は再びスマホへ視線を戻した。
その後、私たちは甘城と阿久田と合流して儀式が始まるまで食べたり話したりして待った。
正直、儀式には興味なかったけど、甘城が初めて来るから見てみたいと言ったのだった。
それから、儀式が始まった。
本殿に笛やら太鼓やらの音色が響くなか、子供たちが緊張の面持ちで石を積んでいる。
すると、鳥居の方から鬼の仮面を被った男が二人やってきて、金棒を振り上げて石の塔を壊してしまった。
「ああっ! せっかく積み上げたのに」
甘城が残念そうに呟いた。
「まあ、そういう儀式やからしょうがないヤデ」
そう言った狐は妙に真面目くさった顔で儀式を見ている。
「でもこの後に“鬼神様”が助けに来るんだろ?」
阿久田の言葉と同時だった。本殿の方から紅白を基調とした装束の者が現れた。手には紙垂が付いた細い板—御幣という—を持っている。
「わあ! 鬼神様がきた!」
「なんかカッケーな」
何だか、特撮ヒーローものを甥っ子と見ていたことを思い出した。
だが、そんな和やかな雰囲気の一方で狐だけは表情を崩していなくて、少し怖かった。
川の話を久徳と三人でした時は「大丈夫ヤデ」とか言っていたくせに何か思うことがあるのだろうか?
「この儀式……まあまあ、やばいかもヤデ?」
そう言いながら私の肩をぐっと握った。
その時だった。
ドスンッ!!
大きな縦揺れが起こり、神社にいる人々の悲鳴が響いた。中には体勢を崩したものもおり、本殿の前は騒然としている。
「きゃああ! 子供たちが……!」
誰かの叫び声が聞こえ、儀式の方に視線を向けると、子どもたちが地面に飲み込まれていくところだった。
子どもたちは慌て、戸惑い、泣いている。
鬼神様は近くにいた子ども二人の腕を必死に引っ張って食い止めようとしている。
「何なの、あれ……」
「“あの世”と繋がってしまったらしいナァ」
「え? じゃああの子たちは?」
「まだ大丈夫ヤデ」
飲み込まれている我が子の元へ駆け寄る人がいる一方で、逃げる人々も出てきて、この場は大混乱となっていた。
身動きが取れないまま状況を見守っていたら、鬼二人の様子がおかしいことに気付いた。
彼らは一歩も動かず、頭をだらんと垂れている。慌てふためく人々の中で、その姿は異質だった。
「まずい。ちょっと借りるしかなさそうじゃ」
口早にそう言った狐は途端に姿を消した。
「え?」
「あれ? 神様、どこか行っちゃいましたね」
「借りる、って何をだ?」
すると、また悲鳴が聞こえてきた。声の方を向くと、そこには金棒を振り上げている鬼たちの姿があった。
「危ない……!」
甘城が足を踏み出そうとしたとき、すかさず割り込んだ鬼神様が御幣で金棒を受け止めた。
「おいたはあかんヤデ?」
私たちはその言葉ですぐに気付いた。借りたのは“鬼神様”の体だと。
「うわあ、どれも美味そうだなー! 焼きそばも食いたくなってきたぜ」
「真樹、色々買って半分こしようよ」
いいぜ、って親指を立てて返事をした阿久田を見ながら、私は「仲がいいんだな」なんて感じていた。
そういえば、2人はどうやって知り合ったのだろう? 甘城は以前、保健室で話していた時は「ようやく人間界に戻ってこれた」と言っていたし、阿久田のほうも冤罪で人間界に追放されたということだったし、二人が出会ったのは割と最近のことではないかと予想した。
聞こうかと思ったが、二人は焼きそばの列に並びに行ったので、まあいいかと口を結んだ。
さて、私は何を食べようかな~と辺りを見渡していたら、腕を引かれた。
「なア~一杯だけ、一杯だけでええんヤ」
未だ諦めていない狐が何か言っている。
「あのさ、一杯だけっていうけど、お祭の飲み物も食べ物も高いのよ」
「わし、神様ヤデ。きっとご利益あるヤデ」
「どんな?」
「うーん、そうじゃなァ」
考えてる時点でご利益なんてないのである。この狐は本当に神様なのかと疑いたくなるが、そんなことを言えばグチグチと何か言われかねないので黙っている。
「あっ、かき氷」
私は列に並びに行く。狐はようやくねだってこなくなったので、私は話すわけでもなくスマホを弄りながら待っていた。
じゃり。
前に進んだ時に私は何かを踏んだ。
「何これ?」
「ン? これは頭陀袋ヤナ」
狐が拾い上げて中を見る。
「ちゃんと六文銭が入っとるヤデ」
「六文銭?」
「亡くなった人が三途の川を渡るための渡し賃じゃな」
「ふうん」
聞いておいて大して興味がない私は雑な相槌を打つ。
狐はそんな私のことを咎めるわけでもなく、六文銭を一つ取り出して表裏を確認した後、頭陀袋に戻してポケットにしまっていた。
(そんなもの拾ってどうするんだろ。狐のことだから、盗んだまであるけど……まあいいや)
私は再びスマホへ視線を戻した。
その後、私たちは甘城と阿久田と合流して儀式が始まるまで食べたり話したりして待った。
正直、儀式には興味なかったけど、甘城が初めて来るから見てみたいと言ったのだった。
それから、儀式が始まった。
本殿に笛やら太鼓やらの音色が響くなか、子供たちが緊張の面持ちで石を積んでいる。
すると、鳥居の方から鬼の仮面を被った男が二人やってきて、金棒を振り上げて石の塔を壊してしまった。
「ああっ! せっかく積み上げたのに」
甘城が残念そうに呟いた。
「まあ、そういう儀式やからしょうがないヤデ」
そう言った狐は妙に真面目くさった顔で儀式を見ている。
「でもこの後に“鬼神様”が助けに来るんだろ?」
阿久田の言葉と同時だった。本殿の方から紅白を基調とした装束の者が現れた。手には紙垂が付いた細い板—御幣という—を持っている。
「わあ! 鬼神様がきた!」
「なんかカッケーな」
何だか、特撮ヒーローものを甥っ子と見ていたことを思い出した。
だが、そんな和やかな雰囲気の一方で狐だけは表情を崩していなくて、少し怖かった。
川の話を久徳と三人でした時は「大丈夫ヤデ」とか言っていたくせに何か思うことがあるのだろうか?
「この儀式……まあまあ、やばいかもヤデ?」
そう言いながら私の肩をぐっと握った。
その時だった。
ドスンッ!!
大きな縦揺れが起こり、神社にいる人々の悲鳴が響いた。中には体勢を崩したものもおり、本殿の前は騒然としている。
「きゃああ! 子供たちが……!」
誰かの叫び声が聞こえ、儀式の方に視線を向けると、子どもたちが地面に飲み込まれていくところだった。
子どもたちは慌て、戸惑い、泣いている。
鬼神様は近くにいた子ども二人の腕を必死に引っ張って食い止めようとしている。
「何なの、あれ……」
「“あの世”と繋がってしまったらしいナァ」
「え? じゃああの子たちは?」
「まだ大丈夫ヤデ」
飲み込まれている我が子の元へ駆け寄る人がいる一方で、逃げる人々も出てきて、この場は大混乱となっていた。
身動きが取れないまま状況を見守っていたら、鬼二人の様子がおかしいことに気付いた。
彼らは一歩も動かず、頭をだらんと垂れている。慌てふためく人々の中で、その姿は異質だった。
「まずい。ちょっと借りるしかなさそうじゃ」
口早にそう言った狐は途端に姿を消した。
「え?」
「あれ? 神様、どこか行っちゃいましたね」
「借りる、って何をだ?」
すると、また悲鳴が聞こえてきた。声の方を向くと、そこには金棒を振り上げている鬼たちの姿があった。
「危ない……!」
甘城が足を踏み出そうとしたとき、すかさず割り込んだ鬼神様が御幣で金棒を受け止めた。
「おいたはあかんヤデ?」
私たちはその言葉ですぐに気付いた。借りたのは“鬼神様”の体だと。

