「アキさん」
「…?なんだい、セツちゃん」
「昨日、山田太郎さんが出征されました」
「…そうか、山田がか」
「はい。」
アキさんは、此方を見ない。
此方に、背を向けている。
「セツちゃん」
「何ですか?」
「…もし、この戦争が終わったら、何したい?」
「え…?」
突然、何なのだろうか。
でも、答えないのは失礼なので考えて答えた。
「…先ず、お洒落な格好をしたいです。葉子ちゃんと一緒に、東京に行って買い物をしたいですね。」
「…そっか。其れ以外は?」
「夢を叶えたいです。…笑わないで下さいね?」
「うん、笑わないよ」
「…白無垢を着ることです…。あと、外国のウエディングドレス?も着たいです!」
「そうか。叶うと良いね」
「はい!」
僅かに、アキさんの声が震えている。
私は気付かないふりをした。
もしかしたら、アキさんは明るい未来を守りたいから、聞いてきたのだろうか。
「アキさん」
「…」
「私は、アキさんを憶えています。必ず、アキさんや、他の兵隊さんが御国を守って下さったから、今があるんだよと、語り継ぎます。だから」
そっ、とアキさんの手を後ろから取る。
「泣かないで下さい…」
アキさんは、泣いていた。
ほろほろと、涙を静かに流していた。
「…あ…セツちゃん……」
「分かります、怖いですよね。死にに行くのですもの。」
そっと語りかける。
「嬉しくないですよね、仲間を見送るの。征かせたくないですよね。…アキさん、私はアキさんの笑顔が好きです。だから、泣き顔よりも、笑顔が見たいです…」
アキさんは大尉。…然し、大尉と云うことを抜けば、唯の二十歳。まだ、未来があるのだ。
「…アキさん…そろそろ夕御飯なので戻りましょうか」