私はかつて、女学生だった。
御国の為、と身も心も国の為に捧げた。
軍事工場で、兵隊さんの為に働いた。
空に旅立つ兵隊さんのお世話もさせてもらえた。
あの時は、疑わなかった。
「必ず、この日本が勝つ。」
そう信じていた。
「日本が敗けるなんて、有り得ない」
そう、思っていた。
だから。
「敗け、た…?」
玉音放送で、天皇陛下の御言葉を聞いた時、私は鈍器で殴られた様な感覚に陥った。
皆、呆然としていた。
皆、泣いていた。
皆、怒っていた。
私達が今まで犠牲にしたのは何だったのだと。
思わず、言った。
「兵隊さんは、どげんなっと?」
鹿児島の方言で、意味は
「兵隊さんはどうなるの?」
私は、涙が眼から溢れ出るのを拭いながら、叫んだ。
「特攻隊ん皆どんな無駄けしみやったと?!御国ん為に散っていった兵隊どん達が、報われじ可哀想過ぎっど!!」
「セツちゃん…」
近くで聴いていた葉子(ようこ)ちゃんも、今にも泣き出しそうな顔をしていた。
「だからよ、あんまりじゃね。…酷かね」
私と葉子ちゃんは、抱き合って泣いた。
大きく、声をあげて。
「あんしん死は無駄やったと…?」
私の脳裏に、あの人が思い浮かぶ。
優しくて、格好良くて、暖かい、兵隊さん。
お兄ちゃんの様に頼り甲斐があって。
笑顔で、 空に旅立ったあの人。
初めて、異性として好きになったあの人。
悔しくて、悔しくて仕方無い。
初めて、愛した人は、特攻隊の兵隊さんでした。