思わずその場にしゃがみ込んで息を荒くする。

「なにこれ……!」

 強烈な頭の痛みと激しいめまい、そしてリーズの視界は暗くなった──


 リーズにとっては一瞬の出来事だった。
 事実、時間にして数十秒という時間だったであろう。
 彼女は床に座り込んでぼうっと外を見ていた。

 そして、思い出した、自分が誰であるのかを──


「リーズ……リーズ・フルーリー……私は、私は、思い出した」

 父親であるフルーリー伯爵のこと、そして兄の事。
 母親はすでにリーズが幼い頃に亡くなっていた。

「そっか、お母様はもう……」

 優しい母親のあたたかいぬくもりを思い出して自分の手のひらを見つめる。

 でも一つ気になったことがあった──

「雪……」

 もう一つ今までの記憶喪失より前にも思い出せていなかった幼い頃の記憶が突然思い浮かんだ。
 真っ白な雪の日、冷たい手母の手がリーズを捕らえていた。

 いつも明るく笑顔だった母親の初めて見る様子。

「どうして、泣いているの……?」

 リーズの中で忘れていた記憶の欠片が彼女の心に刺さる──