「どうなっているんだっ!!!」

 フルーリー邸に怒号が響き渡る。
 何事かといった様子で伯爵夫人は夫の執務室を覗くと、そこには自分の部下に書類を叩きつける夫の姿があった。
 フルーリー伯爵は癇癪持ちで部下を怒鳴ることはそう珍しくはないが、どうやら今回は様子が違うらしい。

「なぜ不作なんだっ!」
「ですから、その……天候不順とブドウの病気が流行り、昨年比の20%ほどしか取れない見込みで……」
「御託はいい!! 早くなんとかしろ!! じゃなけりゃ、お前の給金もなしだ」
「ひいいいー!! これ以上の減給はご勘弁を……! 家族を養えなくなってしまいます……!」
「ふんっ! 自分たちでなんとかしろ」

 突き放すような言葉に伯爵の部下は意気消沈して、その場にへたり込む。
 その様子を見た伯爵夫人も助けようとするどころか、扇子で仰ぎながら「まあ、見苦しいこと」と言って去っていく。


 フルーリー伯爵家の領地は国内でも有数のブドウ畑の名産地であった。