桃のフレーバーティーをカップの半分ほど飲んだ頃、ビルが隣に、そしてビルの母親がリーズの向かいに座った。

「落ち着いたみたいだね」
「すみません、ご迷惑をおかけして……」
「いいんだよ、身体は大丈夫そうかい?」
「はい、もうだいぶ落ち着きました」
「私はキャシーだよ、ビルの母親。もし困ったことがあったらいつでも来な」
「ありがとうございます。嬉しいです。なんとお礼を言っていいか……」
「いいんだよ、記憶、ないんだろ?」

 そのキャシーの言葉に思わず黙ってしまう。
 ビルも先程までやんちゃに動き回っていたが、心配そうに見つめておとなしくしている。

「もし思い出したとしても、思い出さなくても、この村はあんたを受け入れるように決めたんだ。ニコラが頼み込んでくることは滅多ないからね」
「ニコラはどんな人なんですか?」

 ある日森に放り出されていた自分をどんな人間かもわからないのに、助けてくれた人。
 だからこそ彼のことを知りたいし、役に立ちたいと思っていた。
 リーズの中では彼が辺境を守る騎士としか情報がない。

「ニコラはね、私たちをいつも助けてくれる立派な騎士様だよ。森からの獣退治だけでなく、村の運営も手伝ってくれている」
「騎士とはどういったお仕事なのですか?」
「私たちも詳しくはわからないが、ニコラは王都からの使者でね、三年前にここにやってきたんだ。まだ若いのに一人で馬に乗ってやってきてね」

 当時を思い出すように紅茶を一口飲んで、語る。