人前で泣いたことのない私が初めて泣いた相手は好きな人だった。
 星羅はあのあとあの日はずっと私といてくれたが、翌日からは普通に接してくれた。なんだかこそばゆい感じがしたけど、悪い気分ではなかったし、今ではお互いの涙を受け入れられる仲にまでなった。
ただ、綾音たちのいじめは止まらなかった。星羅が綾音のことを振ったのだろうか、綾音は今までにないくらい荒れていた。靴を隠されたり、あらぬ噂を立てて学校中に広めたりしていた。でも、そのいじめは予想を遥かに上回る最悪の形で幕を閉じた。
 ついに綾音のストッパーが壊れたのだろう。調理実習のときに包丁を持った綾音が私に突っ走ってきた。
「死ね!」
恐怖で目を閉じた。突如グサッと音がしたが、痛みはなかった。目を開けて私は愕然とした。星羅が倒れていたのだ。
その場は騒然としていた。先生は職員室へ報告へいき、女子生徒は病院と警察に電話をかけていた。私はお腹から血を流している星羅を抱いて、綾音はその場にいた男子生徒に抑えられながら私に向かって叫んだ。
「お前がいなければ星羅が苦しむことはなかったんだ!お前が星羅を、私を傷つけたんだ!お前が死ねばよかったのに!」
その一文字一文字が私の心を蝕んでいった。
「大丈夫か?」
弱々しくそう星羅は私に話しかけて、私が頷くと意識を失った。
「星羅!?星羅!ねえしっかりしてよ!守るならちゃんと生きてよ!」
星羅の流している温かい血が私の涙腺を破壊させ、私は泣きながら意識を失った。