「耳が痒い。それに違和感がある…」
球に耳が痒くなったので、痒みと違和感をなくす魔法を考えていたが、そんな都合よく魔法を開発できない。
そんなことを考えながら、久々にホウキに乗らず町中を歩いていると、ある看板が目についた。
『イヤーライフ~癒しの耳かきをお届けします~』
(耳かきの…お店?)
今まで生きてきて、耳かきのお店なんて見たことがなかった。だからこそ私はひかれていた。
(もしかしたら、ここなら痒みと違和感を何とかしてくれるかもしれない)
あとは、店員さん次第だった。怖そうな人や危険そうな人ならやめようと考えた。
店の中は窓から確認できた。中にいるのは、セミロングの黒髪で少しおっとりした感じのする優しそうな女性だった。
(あの人なら大丈夫かな?)
そう感じた私は、意を決して店の中に入ることにした。
ドアを開けると、取り付けてある鈴が「カランカラン」と音を鳴らし、私が入店したことが伝わり、先ほどみた店員さん?が近づいてきた。
「いらっしゃいませ~。」
「すみません。ちょっと耳に痒みと違和感があるので見てもらいたいんですけど…。」
私が話をすると、店員さんはにこやかな顔で「かしこまりました。では、コースをお選びください。」とメニューを渡してくれた。
メニュー表には『耳かき』『耳毛剃り』『耳つぼ』『イヤースコープ』と、見慣れない言葉がずらりと並んでいた。
「じゃあ、耳かきの30分コースでお願いします。」
私は“おすすめ”と書かれていたコースを選んだ。
「それではこちらの席にお座りください」と店員さんは美容院にありそうな椅子に私を案内した。
座り心地の良い椅子に腰かけると、店員さんが道具を準備し、開始となった。
「まずは蒸しタオルでお耳を拭いていきますね。」
温かく、少しふんわり観を残したタオルが両耳を覆った。
「とても気持ちイイですね。耳を拭くのって…。」
私は思わず声に出して話始めていた。いきなり話始めて変な人と思われたのではないか。そう思い店員さんの方を見ると、にこやかに「わかります。私もそうですし、他のお客様も最初必ず言いますよ。」と返してくれた。
「お耳の裏やしわの部分ってなかなか意識して拭かないので、余計気持ち良いと思いますよ。」
そういいながら、店員さんは丁寧に耳を拭いてくれた。その結果、耳は温かく、血行もよくなっていたのを感じた。
「では、耳かきに移りますね。痛かったり怖かったりしたら言ってくださいね。別の方法を考えますので。」
客のことを第一に考えてくれている言葉に私は安心した。(この人なら間違いなく問題ないと…)
店員さんには竹製の耳かきが握られていた。初めから耳の奥に入るのかと思ったが、穴の手前をかき始めた。
「あの…、奥の方にはいかないんですか?」
私はつい質問した。全てもゆだねると気持ちを固めていたのに…
「はい。最初から奥に耳かきを入れると、手前の耳垢を押し込んでしまうので…。まずは手前からしっかりと取っていきます。」
「なるほど…。」
確かに理にかなっている。そう思いながら改めて耳を預けた。
カリカリカリカリと心地よい音が鼓膜を刺激する。気持ちが安らぐようだ。同時に自分の耳の中がどうなっているのか気になった。
「あのぉ、私の耳の中ってどうなっています?」
店員さんは一度手を止め、話始めた。
「手前側は細かな耳垢が乾いた状態でついてますね。でも、奥は湿った垢がありますね。普段から湿度の高い場所にいますか?」
そういわれ、私は「魔法薬」の調合部屋が高温多湿であることを思い出した。
「魔法薬の調合部屋…。いつも湿度が高いです…。」
そう呟くと、「多分その影響で奥の耳垢湿って痒くなっているんだと思います。」と教えてくれた。
(できる限り換気して、湿度下げるようにしよう…)

カリカリと耳の入り口部分をかいてもらい、さぁ奥へというところで、店員さんは耳かきを一度離した。そして…
「次は綿棒をサ匙状にしたものを使いますね。」
綿棒でとれるのかと思いもしたが、その思いは不必要だった。
コシュッ!コシュッ!と耳かきとは違う音を立て、奥の方が書かれていく。
素早く、丁寧に耳の違和感がどんどんとなくなっていく。その快感が私を襲う。
「多分、耳の上の部分ってあまりかかれないですよね。」と店員さんは綿棒を半回転させて耳をかいた。
「~~~~~~~~~~~!!!!!」声にならない。気持ち良すぎて叫びたいくらいだった。
(こんな店があったなんて…。ホウキ使わず歩いてよかった…)
「右耳はこれで終わりになります。左耳は見た限り右ほどではないので、簡単なお掃除にしますね。」
そうして、30分の耳かきコースを終えた。入店時に感じていた痒みと違和感は完全になくなっていた。
「ちなみに、このお店っていつから…」
「10日ほど前ですね。私、気づいたらこの街にいて…。自分の得意なことで生きていこうと思って開業しました。」
気付いたらこの街にいたということに引っかかりを感じたが、必要以上に詮索はしないことにした。ひとまず分かったのは、この人は店長さんだったということだ。こんどから、店長さんと呼ぶことにしよう。
会計を済ませて、帰宅しようとすると、店長さんが声をかけてきた。
「あの…、魔法薬を作っているとのことでしたが、極小のモンスターを消滅させる、人体に影響のない薬って作れますか?」
いきなりの内容に、驚いたが私はすぐに「作れますよ」といった。
「もしよければ、その薬をうちの店に卸してほしいんです。この世界なら、耳の中に弱い極小のモンスターがいてもおかしくないので…。」
(なるほど…)
たしかに、この世界ならあり得ない話ではなかった。そして私はそれ以上に、(店長さんとこれからも関わることができる)と思うと、嬉しくなり、二つ返事でOKした。
「「ありがとうございました。今後もよろしくお願いします!!」」
互いに同じ言葉で締めくくり、私は店を出た。
「よし!魔法薬作るか!」
気分がすっきりとした状態で、私は頼まれた魔法薬を作るため、調合部屋に戻っていった。
(調合部屋の換気忘れないようにしないとね…)