孤独。それは、仲間や身寄りがなく、ひとりぼっちであること。思うことを語ったり、心を通い合わせたりする人が一人もなく寂しいこと。
 学校でも家でもどこでも孤独。誰にも愛されない。誰にも見つけてくれない。生きる意味がない。私は学校の授業中であることにも関わらず、嘘をつき屋上へ来ていた。屋上にフェンスはなく、すぐ飛び降りることができる。親から虐待され、クラスメイトからいじめられ、友達がいない。いや、親というべきではないだろう。
 空は晴れていて、私の気持ちなんか関係ないみたいだ。屋上は唯一私を私でいさせてくれる場所。誰にも邪魔されず泣くことができる場所。
 やはり、痛いのだろうか。でも、生きている方が私にとって痛くて、辛い。この世界から消えたい。死にたい。そう思う度に涙が溢れ出て止まらない。私が泣いたまま屋上から飛び降りようとした時。
「授業抜け出して何してんの」
突然声がして振り返る。涙目ということも忘れて。そこには先程まで授業をしていた筈の教師が立っていた。
「……先生こそ、授業どうしたんですか」
「俺?自習にした」
数学の笠原先生は若く、生徒からの人気もある。そんな先生に私の気持ちが分かるわけない。
「どうして……ここに来たんですか」
「死のうとしてただろ」
「……まぁ、死にたいので」
「どうして?」
先生は優しい声で聞いてきた。何故話したこともない生徒を気にかけるのだろうか。それも教師という仕事のうちなのだろうか。
「…………誰にも愛されなくて、あの人達に虐待されて、同級生にもいじめられて、先生も見て見ぬふりで、人生楽しくないでしょ。どうせ人気者の先生にはこの気持ち、分かりませんよ」
「いや、分かるよ」
吐き捨てるように言った言葉は彼を傷つけるどころか、共感をしてくれた。
「え……」
「いじめられたとかの理由じゃないけど。俺も死にたいって高校生のとき思ってたから」
「……どうして、ですか」
先生が優しい声で聞いてくれた様に、私も出来るだけ、優しい声で聞く。
「俺さ、昔からリーダーシップみたいなもんあって、中学のときから学級委員まかされてたの。それが高校も続いてさ、しかも成績優秀だったから塾とか学校とか親とかにめっちゃ期待されて。風邪引いても頑張らなきゃ、期待に応えなきゃってなってた。でもさ、ある日なんで俺こんな頑張ってるんだろうって思ってさ。自分が頑張ってる意味が分かんなくて俺もこんな人生意味ないなって死にたくなった」
人気者でも、いや、人気者だからこそ死にたくなる時もある。そう思った。
では、どうして、今も生きているのだろうか。顔に出ていたのか、先生は答えてくれた。
「俺もあの時、屋上行って死のうとした。でも、お前みたいに飛び降りようとしてた時、俺みたいに教師が来た。」