一緒に過ごす、恋人としての日々は甘く幸せだ。毎日同じベッドで眠って、時間があれば散歩に誘ってくれて。
美味しい料理を一緒に食べて、読書を楽しんで。
いつも私のことを可愛いと言って頭を撫でてくれる。彼に触れてもらうととろけるチョコレートになってしまったかのように、とろんとしてしまう。
大好きな人と一緒にいるとこんなにも幸せなのか。
ゲームをしているだけでも楽しくてたまらなかったのに、現実の世界で愛し合えされるのがとても気持ちがいいことだった。
でも、妻になることはない。
異世界から来た私を、国民が受け入れてくれるなんて難しいだろうし、そもそも夫婦になりたいと思われていないかもしれない。
それなら妾でもいい。そんなことを考えてしまう始末だが、この国は、妾という存在は許されないのだ。
彼の血を引く子供を産んでいいのは、たった一人の選ばれた女性だけ。
なので正妻以外の人に万が一子供ができたら、存在を消されてしまう。
それを知ってから私は抱かれるのが怖くなって、距離を置くようになった。
「セイラ。なぜ俺を避ける」
「……体調があまり優れないのです」
瞳をじっと射抜かれるように見つめられ、黙り込んでしまった。
「嘘をついてはいけない」
「怖いんです」
「前にも言っただろう? 俺が守るから怖がる必要はないと」
握られた手をそっと離した。
ずっとそばにいたらもっと好きになって、もしかしたら妊娠してしまう可能性もある。
最悪な運命になってしまわないように、ここから出て行ったほうがいいかもしれない。
本当はずっとそばにいたいけど、それは許されないことなのだ。
「……この国の中には、耳や尻尾がない人もいるんですか?」
私のような容姿の人間が歩いていたら、目立ってしまう。
他にも耳と尻尾がない人が存在するなら、リスクは減るだろうと思って質問したのだ。
「いや。呪いをかけられてしまって。ずっと昔に」
「呪いですか?」
今更になって知ってしまった事実。
この獣人姿も可愛くて大好きだけど、元の姿に戻るならそれも見てみたい。
「大切な呪文が書かれている金庫があるらしいが、他国にあるんだ。ところが対話をしてもらえないんだ」
「そうだったんですね……」
彼は残念そうに頷いている。
「我が国に特別なものがあれば、交渉をさせてくれるかもしれない」
「なるほど」
「この姿になってしまったせいで、狼のようだが、満月の夜には血が騒いで苦しむ人もいるんだ。だから本当は元の姿に戻したいと考えている」
シャネード様の苦しんでいる姿を見て、何か力になりたいと思ったが、今の私には何もすることができなかった。

愛する人のそばにいたい。
でも許される身分じゃないし、私は異世界の人間だ。
彼にはやらなければいけないことが山ほどある。
そんなとき、私は身ごもっていることに気がついてしまったのだ。
愛する人の子供を産みたい。
でも、異世界から来た私は正妻にはなれないし、シャネード様には婚約者がいた。
私が妊娠に気がついた頃から、彼は不在にすることが多くなって、ゆっくりと話をする時間もなかった。
もしかしたら、私という存在が邪魔になってしまったのかもしれない。
そんな悪い妄想を浮かべて、涙する毎日だった。
日に日にお腹が大きくなっていくので、このままではバレてしまう。
誰にも見つからない場所で子供を産んで育てるしかない。
このままここで過ごしていても、命を狙われてしまうだけだ。
二人が愛し合っていた時間は幻ではないと信じているけれど、大切な子どもの命を守るため、逃亡することを決めた。