どんな方法を試しても、私はいつも異世界で目を覚ます。
毎日を過ごす中、もう戻れないと覚悟を決めた。
この世界は中世ヨーロッパのようで、文化は進んでいない。
ここは王宮なのでとても豪華な造りをしているけれど、街を見るとまだまだ発展していない。
だけど空気が美味しくて、植物も綺麗で、湖も美しい。
何よりも『生きている』って感じることができる。
それはきっと、シャネード様が大切に扱ってくれるから。
日本にいた時は、自分の存在が無視されているような感じがした。
まだまだこちらの世界で私のような姿の人間を見たこともない人もいっぱいだけれど、王宮の職員たちも理解を示して、嫌な顔をする人がいない。
この世界が私には合っていると思うようになっていた。
いつも親身になって接してくれて、部屋まで与えてもらい生活させてもらっている。
せめて何かお礼がしたいと思い、料理を振る舞うことになった。
日本にいた頃、両親は仕事で遅かったので私が食事を担当することが多くて。
美味しいって言ってもらったことはない。私が作るのが当たり前だったから感謝の言葉をかけてもらえなかったのだ。姉は料理が上手で羨ましいって言ってくれたけど。
その他に自分ができることがあるかなと考えたけど、特別な才能もないし。
料理を作らせてもらうことにしたのだ。日本人だったので、和食っぽい料理になってしまう。
でも、こちらの口に合うように、ワインを使ったり、魚で出汁を取ったり、工夫をしながら料理をした。
シャネード様がせっかくだから一緒に食事をしようと誘ってくれ、私の作った料理を並べる。塩味の煮物。出汁入り卵焼き。魚のワイン蒸し。
見た目はとてもシンプルかもしれない。
色も薄く見えるかもしれないけど、出汁を楽しんでほしかった。
口に入れて咀嚼すると瞳を輝かせる。
「こんなに美味しい料理を食べたことはない!」
「気に入っていただけて光栄です」
自分の料理が受け入れられて安堵していた。
シャネード様には私が作る料理が大評価だった。
猫科の獣人だから、魚料理が好きなのかもしれないけど、喜んでもらえて嬉しい。
二人でゆっくりと食事をしながら話をする。
「シャネード様、私はこの世界が好きです」
「セイラが好いてくれたならそれは嬉しいことだ」
「ずっとこちらの世界で生活していきたいと思っています。なのでもう、元の世界に戻る方法は探さないでください。今までありがとうございます」
「本当にいいのか?」
「はい。ここを出て仕事を探して頑張っていきます。私にどんな仕事ができるでしょうか」
彼は寂しそうな表情を浮かべた。
「焦って出ていくことはない。王宮にも仕事はいくらでもある」
「しかしいつまでもお世話になるわけにはいきません」
「俺が寂しいんだ」
本心を打ち明けると耳を真っ赤に染めて咳払いをしている。
私のことをそんなふうに思ってくれる人がいて嬉しくて泣きそうになった。
「セイラと一緒に過ごしていると心が穏やかになっていく」
彼はなかなか人に心を開かないのだ。
だからすぐに仲良くなった私たちを見て、侍女らはかなり驚いていた。
そして私という存在が来てから、喚き散らすこともなくなったらしい。
「俺のそばで、俺の世話をしてはどうだ?」
「何から何までお世話になってすみません」
「これからも、頼む」
それからの私は、彼のことなら何でも知っているというくらいそばにいた。
お仕事でもプライベートでもお世話をさせてもらっていた。