しばらくして、国で一番優秀と言われる魔術師にも会わせてもらった。
わざわざ私のために時間を作って、南にある山まで連れて行ってくれたのだ。
紫色の植物がたくさんあって、怪しい雰囲気。本当にこんなところに来て、元の世界に戻れる方法があるのかと不安になった。
薄暗い館の中に足を踏み入れる。
中から出てきたのは陽気なおばあさんだった。
「シャネード様。こんな遠くまでありがとうございます。まあ……立派な黒髪だこと」
「セイラと申します」
どんな呪文を唱えたのか、覚えている範囲で伝えた。
「……難しいですが、やってみましょう」
水晶をおいて、魔術師は私の脳内にあるイメージを映し出してくれた。
それは私が住んでいた日本という国。
シャネード様は覗き込んで感心している。
「夢のような世界に住んでいたんだな」
「文化が発達しているかもしれませんけど、もしかしたら今の方が充実した人生を過ごせているかもしれません」
もしこれから魔術師が私を元の世界に戻すことができたらと、想像したら寂しくなってきた。
「一応お別れの挨拶をしておきます」
私はシャネード様に近づいて両手を広げる。
彼は穏やかな表情を浮かべて抱きしめてくれた。
「今まで本当にありがとうございました」
「こちらこそ」
しっかりと挨拶をして私は魔術師の前に立った。
長い棒を振りかざしながら、聞いたことのない言葉を口にする。
地面から風が湧き上がってきて私の黒髪が広がった。
これは元の世界に戻れるかもしれない。
そう思った時。
「ごめんなさい。私の力では無理だわ」
「「え」」
先ほどあんなにもしんみりとお別れをしたのに。
この国の一番の魔術師と言われる彼女ですら、私を元の世界に戻すことができなかったのだ。