ところが次の日も私は異世界で目を覚ました。
本当に異世界にトリップしてしまったのか。
信じられなくて、ベッドから抜け出すとカーテンをシャッっと開いた。
寒そうな空。
見たことのない景色が広がっていた。
もう日本に戻ることはできないのだろうか。両親は私がいなくなっても寂しがることはないだろう。でも……どうしよう。
ドアがノックされ食事が運ばれてきた。
「シャネード様が、お着替えもご用意してくれました。お手伝いいたしますので気軽に声をかけてくださいね」
メイドがにこやかに話しかけてくれた。
食事をして着替えを済ませたが、これからどうすればいいのかわからない。
昼食は食欲がなくなってしまいほとんど手をつけることができなかった。
このままここにお世話になるわけにもいかないし。
でも異世界から来た私が一人で生きていくことなんて難しいだろう。考えて、考えて、答えが見つからなくて頭が痛かった。

夕方になりシャネード様が部屋を訪ねてきた。
「ちゃんと食事ができていないそうじゃないか」
「私……どうしたらいいかわからないんです。自分で望んで異世界に来たのですが……。まさかこんなことになるなんてわからなくて」
混乱する私を見て、シャネード様は微笑む。
優しく大きな手で背中をさすって、涙を流すとシルクのハンカチで拭ってくれるのだ。
「大丈夫か?」
「……大丈夫ではありません」
「そうだな。愚問だった」
「……私だけこの世界では耳が生えていないんです。変な人間だと思われちゃいます。怖い、どうしよう」
混乱してそんな言葉ばかり言っていた。
だが彼は怒ることなく、私の気持ちが落ち着くまで話を聞いてくれる。
「怖がることはない。俺が守るから」
「……どうして優しくしてくださるんですか?」
「そのゲームの世界というのはよくわからないが、セイラの愛情が伝わってきたからだ」
穏やかな笑顔を向けられ、私の頬が熱くなった。
「一緒に魔術師のところへ行こう。何か解決策があるかもしれない」
彼の側近に私の存在を話してくれ、そばで過ごすことを許された。
猫じゃらしは、魔法の棒……と言われ、なぜかこちらの世界では、魔法のような力を持っているとまで噂されるようになってしまったのだ。
私にとっては好都合だったのかもしれない。お守り代わりに持ち歩くことにした。