王宮に戻った私は検査をして、母子共に健康体だった。
……それからというもの。
会えなかった分の時間を埋めるかのように、シャネード様からの溺愛攻撃が始まった。
お腹がパンパンに膨れ上がっている私を優しく撫でる。
「可愛いな。楽しみで仕方がない」
凛々しい顔が崩れていく。顔を皺くちゃにさせているのだ。
「まだお腹の中にいて見えないじゃないですか」
「俺にはわかるのだ」
きっと子供が生まれてきたら、彼の溺愛はさらに増していくだろう。
「セイラ、おいで」
隣に座っているのにさらに距離を詰めるように言われる。私が動こうとすると止められた。
「今は動きづらい体だった。俺が近づこう」
私の背中に手を回して優しくさすってくれる。髪の毛をいじったり、額をくっつけてきたり。恐ろしい人だとは想像できない。
「シャネード様。これからは国民に怖がられるようなことをしてはいけないですよ」
「ん?」
「過去にお辛いことがあったのか、色々してきたそうですね」
ちょっとお説教っぽいかなと思ったけど、もっと彼の良さを国民に知ってもらって愛される皇帝になってほしいと思ったのだ。
「セイラの愛情は深くて大きい。わかった。過去を反省してこれからは人々を愛していく」
「ええ」
素直に応じてくれる彼に私から甘い口づけをした。
「あと、ずっと考えていたのですが」
「なんでも言ってごらん」
「大切な呪文が書かれている金庫が他国にあるっておっしゃってましたよね」
「ああ。国に特別なものがあれば交渉できると思っていたと話していたことがあった」
「何か見つかりましたか?」
シャネード様は残念そうに頭を左右に振る。
それなら日本人の私の知識を活かせば何か役に立てるかもしれない。
でも私は、そこらへんにいる普通の日本人なのだ。
できることといえば、日本食を作ること。
あれだけシャネード様は、美味しいと喜んでくれた。彼の側近に振る舞ったこともあったが、感動して涙を流していたほどである。
「……料理は、どうですか?」
「料理?」
「すぐにはうまくいかないかもしれないですが、国民に料理を振る舞って、口コミで広げていき、我が国には本当に美味しい料理があると世界中に広めていくんです。交渉の切り札としてレシピを教える」
「それはいいアイディアだ!」
時間はかかってしまうかもしれないが、挑戦してみる価値はありそうだ。
「セイラは本当に素晴らしい。可愛いだけじゃなくて、頭もいいし、最高の妻になる」
また頬をスリスリとさせて、何度もチュッチュッとキスをしてくれる。
「ほら、たくさん食べるんだ」
テーブルに守られているフルーツを手に持って口元に持ってきた。
「自分で食べられますよ」
「日中は忙しくて一緒にいられないから、夜ぐらいはこうして世話をさせてほしい」
恥ずかしいけれど私は大きな口を開けた。
甘酸っぱいフルーツの味が広がっていく。
恥ずかしい。日本で生活していた時には恋人がいなかった。
まさか、ずっと好きだったゲームの推しとこうして夫婦として生活できるなんて想像もしていなかった。
皇帝の妻となり、大変な運命になってしまったけれど、受け止めて乗り越えていくしかない。