どんなに逃げても神々の目からは逃れられない。
それは悲劇に見舞われた若い夫婦も同じだった。
取り残された士郎達の前に柑奈の父で龍神である白堊が現れた。
白堊の目に映るは泣き腫らした顔の士郎の腕の中で変わり果てた愛娘の姿。

「柑奈…」
「ごめんなさい…ごめんなさい…!!!俺のせいです…全部俺のせいなんです…!!」
「もう何も言うな士郎。お前は何も悪くない。この子が自ら選んだ事」
「俺が殺したんです…俺が彼女を殺したんですよ…。彼女に守られてばかりで無力で…何も…っ!!!」

柑奈を救えなかったのは龍神である白堊も同じ。
神が人間と妖の間に介入するのは禁忌。それは過去に起きてきた悲劇がそうさせていた。
一度人間と妖に関われば神は手出しできない。幾ら、自分の娘が龍の乙女でもそれは同じ。
神々ができる事は彼らを見守り加護をする事。そして、罪を犯した者への罰する事だ。

(きっと…あの子は私の介入は望まなかっただろう。全て自分の手で解決したがった。龍族でも龍の乙女でもなく、普通の人間として生きたかった彼女の最期の望み)

龍の乙女は龍の力を蓄える為200年の周期を経て生まれ変わる。けれど、柑奈としての記憶は引き継ぐことはない。死の間際に願った祈りの記憶さえも。
巫女を失った村は幸せな時間は消え去り、悲しみに包まれ、冷たい雨が降り注ぐ。
士郎の涙は雨水に混じり地面に滴り落ちる。

「あの妖狐のことは私達神々がけりを付ける。あの子が200年後に生まれ変わっても近づけさせない」
「……」
「もちろん士郎。お前にもだ。だから…」
「……白堊様。一つお願いがあります」

動かなくなった柑奈を見て士郎は決意する。その決意は残酷な痛みが伴う決して逃げられないモノ。

「柑奈を救えなかったのは全て俺の責任。龍の乙女を死に至らしめた血族。でも…もし許されるなら200年後、もう一度彼女に会いたい。そして、今度こそ彼女の願いを叶えて幸せにしたい」
「まさか…」
「これから生まれてくる子孫達にはとても迷惑をかけるでしょう。けれど…これは柑奈を守れなかった戒め。だからお願いです。俺に黒鱗の痣…"枷の呪い"をかけて欲しい」

痛みが伴い、死も伴う伝染する逃れられない呪縛。全ては愛した花嫁の為。士郎の目に迷いはない。

「この呪いは龍の乙女にしか解けない。分かっているな?」
「分かってます。覚悟もできてますから…」

士郎は涙を拭い、腕の中で眠る柑奈を優しく見つめる。
200年後に必ず会おうという約束として士郎は柑奈にそっと口付けをした。




枷の呪いは文字通り士郎の子孫達を苦しめてきた。
大人だけでなく幼い子供の命さえも脅かした血統の呪いは新たな龍の乙女が転生するまで続く。
士郎と柑奈が交わした約束に一筋の光が差し込む。それは、士郎の子孫である佐々間輝の17歳の誕生日を迎えた所から始まる。
その光は先祖達が果たせなかった約束を遂げることができるだろうか?
新たな龍の乙女と新たな光が見出す未来は誰にも分からない。


龍と人間の異種が呪いを乗り越え幸せを掴むまでの物語の始まり。