笑満に顔を向けると、ぽんと肩を叩かれた。
「まー……ね。目立たないようにしてるってだけで、生徒から嫌われるようなことしてないし。授業はわかりやすいし、話せば優しいし」
「………」
そう……なの? いや、そうだけど。
フォローになっていない笑満のフォローに、言葉を失ってしまう。
流夜くんは優しい。
吹雪さんや降渡さんには、『咲桜には甘すぎる』と爆笑されながらからかわれるほど大事にしてくれる。
でも、学校での『神宮先生』だって、流夜くんがわざと目立たないように振る舞っているけれど、根本が同じなのだからやはり優しさはにじみ出るんだろう。
……隣の笑満の表情の意味ははかりかねるけど。
恋愛感情を、神宮先生――流夜くんに対して抱いている生徒もいるということだろうか。
――わけのわからない不安が胸に落ちてしまった。
流夜くんが、学生時代に恋人の数が多かったことは聞いている。
その人たちに嫉妬をしたのも事実。
でも、『恋愛感情を持ったのは咲桜だけだ』と宣言してくれたから、不安になることはなかった。
……今は違う。現在進行形で、流夜くんを想っている――かもしれない人がいる。すぐそばに。
「さおー。大丈夫だよ。あの人は生徒に付け入られる隙なんて見せない」
いつの間に起きたのか、頼が腕に顎を載せてこちらを見上げていた。
「………」
「あの人の本性も知らないですきなんて言ってる人、気にするに値しないよ」
バッサリだった。
……流夜くんの本性を知らないのは仕方ない。本人が隠しているのだから。
でも、私だって知らなかった。
私が惹かれたのは素の流夜くんだった。
あの子は? もし何らかの事情で流夜くんの素顔を知ってしまったら? ……自分みたいに、もっとすきになってしまうかもしれない。
頼に返事が出来ないでいると、小さくため息が聞こえた。
「咲桜。この言い方は怒られるかもしれないけど、学校でのあの人は偽モノだよ」
「―――」
はっとした。
にせもの。