「休憩にしましょう」
 俺はストレージからテーブルと椅子を人数分出した。

「「「 ………………… !! 」」」

 さらに驚く『赤い翼』のメンバーたち。

 テーブルに人数分のカップを出し、ストレージに入れておいた紅茶を注いだ。
「さあ、どうぞ。召し上がってください」

「あんちゃんには驚かされるぜ」
「まったくそうよ」
「それだけでも、十分食っていけるぜ」
「そりゃそうだ」
 と、4人に言われた。

 話を聞くとアドレーさんとエリノルさんは、同じ村出身で幼馴染なんだとか。
 アレンの街に来て酒場でジェイさんとランダルさんに出会い、意気投合してからの付き合いだとか。

 そんな話をしていると、ランダルさんが指を口に当てた。
「シッ!静かに」
 『赤い翼』のメンバー全員が武器を構えた。

 何かが近づいてくる。

 ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ!

 長い鼻と長い耳。
 身長は約3mの巨人。

「トロールだ!!しかも『はぐれ』だ」
 アドレーさんが叫ぶ!

 盾役のジェイさんが前に出る。
 エリノルさんは後ろに下がり弓を構える!
 俺はテーブルと椅子をストレージに仕舞った。

「逃げてください!エリアス君」
「なんでこんなところにハグレがいるんだ!」 

 トロールが見えてきた。
 オーガ以上の筋力を持ち驚異的な再生能力を持つと言われている。
 一抱えもありそうな大木を持っている。
 しかもはぐれは気性が激しい。

【メンタルスキル】沈着冷静が発動し、俺は慌てることもなかった。

【スキル・鑑定】簡略化発動!
 名前:はぐれトロール
 種族:魔物
 性別:メス
 レベル:28

【スキル】
 雄たけび

 これはまずい。この四人でも食い止めるのが精一杯かもしれない。

 タンク役のジェイさんが前に出る。
「こい、このやろう!」

 ドンッ!

「わァ!!」
 ジェイさんが吹き飛ばされる!
 エリノルさんが弓を放ち足止めをし、アドレーさんが剣で対抗しているが決め手にならない。
 
「「「逃げろ!エリアス君、はやく!」」」
 ランダルさんが叫びながらショートソードで切りかかる!

 エリノルさんがトロールに追われ捕まりそうになる。
「いや~、来ないで!」
「エリノル!!」
 アドレーさんが叫ぶが止めることが出来ない。

「 ウォ~~~~~~ン! ! 」
 トロールが雄たけびをあげ、みんなスタン状態に。

 まずい、このままでは全滅だ。なにかないか?俺にできることはないか。

 高速思考で考える。
 俺のスキルは時空間魔法ストレージでカスタマイズ可能。
 考えろ、考えろ。

 ストレージは生き物は収納できない。
 それ以外は収納可能。

 なら【スキル・ストレージ】発動!
 カスタマイズ開始・ ・ … … カスタマイズ完了!

 俺はメンバーの前に出て、トロールと向き合った。
 「「 あっ!!エリアス君 」」

 俺の考えが間違っていなければ…。
 腕をクロスし防いだ。
〈〈〈〈〈 ドンッ!! 〉〉〉〉〉
 鈍い音がした。
 それだけだった。

 思ったとおりだ。
 ストレージは生き物を収納できない。
 これを利用し俺は部分的にストレージで腕を(おお)ったのだ。
 そして物理攻撃は受け止めて衝撃を収納する。
 これならどんな攻撃も防げるのでは?

 だが甘くはなかった。
 ストレージに物を入れている時は消費しないのに、防御に回すとMPをどんどん消費していくのだ。
 MP100⇒80⇒70⇒60⇒50
 トロールは俺に攻撃が効かないことに苛立ったのか、何度も何度も丸太で叩いてきた。
 そのたびに俺は腕をクロスし、やつの衝撃を収納した。

 MP40⇒30⇒20

【スキル】世界の予備知識発動!
 『剣技』ロ ード・・・・… … 読込完了!


 俺は剣の(つか)を握った。
 一か八かだ。
 生活魔法の風を真空状態で剣に纏うようにイメージした。
 これで切れ味が上がるはずだ。
 左足を引き腰を落とし、膝に力を貯めた。
 剣を抜き刃を外側に捻り、抜き放つ瞬間にそのまま刃は水平に振り抜く!

 ドバッ!!

 肉を切る手応えがあった。
 トロールの腹は真一文字に切られ、そこから内臓と血が飛び出した。

 手首を反らして柄を握り、二の太刀で首を狙う!
 その瞬間、今まで貯めていた衝撃を放つ!!

 ドンッ!!グシャッ!!
 
 トロールの首が落ち頭は潰れていた。

 危なかった。
 MPは残り5。
 防いでいるだけでは勝てない。
 だから生活魔法:風を刃に(まと)わせ切れ味を良くした。
 初めて使ったが思った以上の切れ味と疲労感だった。

「はあ、はあ、はあ」

「「 す、すごい 」」

「大丈夫ですか?みなさん」

「「「あぁ、大丈夫だ(よ)」」」

 どうやら四人共、無事のようだ。

 ジェイさんが腕を抑えて立ち上がる。

「お~痛て~、しくじった」
「これ飲んでください」
 俺はハイポーションをジェイさんに渡した。

「こ、これはハイポーションじゃないか!もらうわけにはいかないよ」
「まあ、そう言わずに受け取ってください」
「そ、そんな悪いな、この借りはいつか返す。護衛が怪我してたら世話がない」

 ジェイさんはハイポーションを受取り飲んだ。
 すると体が淡く輝き、すぐに効果がでたようだ。
「ふぅ~助かったぜ」


「しかし凄かったですね、エリアス君。あんなに強いなんて」

「そうですよ。俺たちの前に出たときは、どうなるかと思いましたよ」
 エリノルさんとランダルさんに言われた。

「これだけ強ければ護衛はいらなかったのでは?」
「いいえ、俺も夢中でしたから。みなさんがいなければ、どうなっていたか」
「そう言ってもらえると助かる」

「このトロールはどうするんだい?ギルドに売れば素材と魔石で、いい金になるぜ」
「では持ち帰りましょう」

 俺はそう言うとストレージにトロールを収容した。

「さっきの剣技は初めて見ました」
「弍の太刀参の太刀と、相手に切りつける『剣術』という技です」
「初めて聞きます。エリアスさんの国の技ですか?」
「えぇ、そうです。ではそろそろ、戻りましょうか」


 こうして俺たちは冒険者ギルドに戻ってきた。