私はエリアス君がギルドを出て行くのを見送った。
 そして残ったオルガさんが声を掛けた。

「ねえ、アリッサさん」
「なんでしょうか?オルガさん」
「エリアス君のことなんだけど」
「エリアス君のこと?」
「えぇ、そうよ。彼の事が気になる?」

「な、なにを言っているのよ。あなたとお付き合いしているのでしょう?」
「う、うん。そうだと思うよ。でもまだ言葉では、言ってもらってないけど」
 えっ!言葉は無いって、どこから始まったの?普通逆じゃないの?
「獣人の私は助けられた恩に報い、強さに引かれるけど独占したいとは思わない」
「そ、そうなの(それで、したのね?エリアス様君て、案外…)」
「変なこと考えてない?口に出さなくても、気持ちは分かるものよ」
「い、いえ、別に」

「それじゃあちょっと聞くけど、今日は何時に仕事は終わるの?」
「17時だけど、なぜそんなことを」
「仕事終わりにちょっと付き合わない?」
「どう言うこと?」
「魔法に興味があり追及している人なら、良いものが見れるわよ」
「良いものって?」
「長生きの森妖精(エルフ)でも、見たこともないような魔法よ」
「な、なぜエルフだとわかったの」

「虎猫族の私の鼻を侮らないで。種族によって匂いが微妙に違うのよ」
「そ、そうなの。でもこのことは黙っていてね」
「誰に?エリアス君に?おばあちゃん超えだと、分かると困る??」
「ち!違うわよ。でもエリアス君絡みの話みたいね」
「えぇ、そうよ」
「分かったわ、付き合うから。帰りに待ってて」


 私にそう言うと、オルガさんはギルドを出て行った。
 エルフ族は比較的、何かに没頭する種族だ。
 多分それは長生きな分、探求心が強いのだろう。
 他の仲間も薬草などの研究に没頭して、何百年も森の奥から出て来ない人もいる。
 時間があり余り過ぎている。
 だから没頭できる何かが無いと。

 そして魔法の鍛錬、習得も欠かさない。
 でもこうして街中に住んで仕事をしていると、時間に追われ最近では魔法の鍛錬できないのが事実ね。
 腕が鈍ってしまうわ。



 17時になり私は冒険者ギルドのドアを開けた。
 すると建物の壁に寄り掛かったオルガさんが待っていた。

「ごめんね、待った?」
「いいや、今来たところさ」
 こ、これはデートじゃないよね?

 そして私達は歩き出す。

 オルガさんは獣人だけって、締まった筋肉質の体をしている。
 動きも俊敏そうだ。
 髪は茶色のショートカット。
 頭の上にちょこんと茶色の耳が載っている。
 オルガさんはボーイッシュで、女性冒険者のファンも多く人気も高い。

 なにを思っているんだ私は?

 そして繁華街を過ぎ、宿屋の前に立ち止まった。
「ここが私とエリアス君が泊っている宿屋よ」
 宿屋を教えて何の意味があるのだろうか?

「6日後の指名依頼までここに滞在しているの」
 はあ?
 そう言ってオルガさんはまた歩き出した。
 少し歩くと立派な大きな宮殿の様な豪邸が見えて来た。

 あれ?
 こんなところにあったかな?
 時々この道を通るけど、数日前はなかったはずだわ。
 どこの公爵様の別邸?
 塀も3m以上あり高く立派な作りだ。
 でも門番が居ない。

「さあ、中に入りましょう」
 そう言ってオルガさんは、その豪邸を指差した。

 え?

 門は鉄製らしく片門で、幅2mくらい高さ3mくらいの大きさだ。
 オルガさんは、門のところに鍵を入れ回した。

 なぜオルガさんが、この家の鍵を?
 カチ!と音がして門の鍵が開く。

 片手で門を押して中に入る。
 門は静かに開いた。

 庭も整備されており、門から屋敷まで石畳が引かれている。
 そしてその建物は、見たことも無いような作りの3階建てだった。

 1階から3階までの各部屋には、ガラス窓になっている。
 いったいどれほどのお金が掛かっているのだろう?
 ガラスは加工が難しくとても高価だ。
 私が両手を広げた幅くらいでも、眼が飛び出るくらいのお金は掛かるはず。
 それをこんなにふんだんに使うなんて。


「オルガさん、ここは…」
「まあ、それより屋敷の中を見て」
 そう言われ私は屋敷の中を案内される。

 正面は大きな階段があり、左右はフロアになっている。
 一階はホール、大階段、食堂、客間、台所、洗濯場、風呂場。
 そして各水場には蛇口と言う物があり、捻ると水とお湯が出た。
 これで毎日、お風呂に入れるそうだ。

 二階、三階は部屋が七部屋ずつと各階にもトイレが付いている。
 驚くのはトイレで陶器で座れるような作りになっており、後ろにタンクがおり水か流れるようになっている。
 その中にフロートを浮かせ水が無くなると、水属性の魔石から水が出てタンクを満たすようになっている。
 そして水圧を利用しノズルが出て、水が出るようなっていた。

 アウッ!
 不覚にも初めて使った時に、私は声を出してしまった。
 ウォシュレットの素晴らしさをこの日、知ってしまったのだ。


 各部屋には照明の魔道具が付いている。
 こんな贅沢なお屋敷は見たことない。

 どこの皇族のお屋敷なの?
 いいえ、お金を出せば建てられる限度を超えて言うわ。
 そんなところの建物の鍵を、どうしてオルガさんは持っているの?
 実は獣人世界の令嬢?
 それ以前に、どうして私をここに案内したの?

 オルガさんが口を開く。
「依頼が終わり戻ってきたら、私とエリアス君はここに住むのよ」

 えっ?!

 そして耳を疑うような言葉を更に聞いた。

「ここはね、エリアス君が魔法で作った建物なの。信じられる?」