目が覚めるとオルガさんの顔が横にあった。
 そして俺達は、服を着ていなかった。


 屋敷を創った、それは覚えている。
 今までこんなに魔力を使ったことがなかったからか、意識が朦朧としていた。

 意識が断片的になり、宿屋のベッドに横になっているのは分かった。
 その時、オルガさんの顔がとても近かった。
 いつもの幻想だと思い、つい思っていたことをしてしまった。

 尻尾を掴み猫耳を噛むことだ。

 昔飼っていた猫は茶トラ模様で可愛かったな。
 オルガさんも茶トラ模様だった。

 そして転生の時に精神年齢も亡くなった時の35歳から、徐々に15歳になるようお願いしていたが。
 まさかこんなにも、この年齢の時は欲望が強かったとは思わなかった。

 そしてオルガさんの顔を見るとまた、可愛くなりおでこにキスをした。
 耳をモフモフし脚を絡め、ほっぺもグリグリする。

 そんなことをしていると、オルガさんが目を覚ました。
「お、おはよう」
 俺はつい、言ってしまった。
「おはよう」
 オルガさんも答える。
 顔が赤くなって可愛い。

「可愛い」
「エ、エリアス君の馬鹿!」
 オルガさんは照れている。

「ねえエリアス君」
「なあにオルガさん」
「私のこと嫌いになった?」
「なんで?」
「だって私、鍛えているから筋肉質で…」
「い、いや。そんなことないよ。筋肉質な女の人は好きだよ」
「ほんと、嬉しい~」
 その言い方だと俺がフェチみたいだけど。
 オルガさんは、嬉しかったのか抱き着いてきた。

「冒険者ギルドに行ってみないか。もうアバンス商会からの依頼があると思うから」
「そうね、行ってみましょうか」

 そう言えば、今は何時だろう?

 俺達は服を着て2階の部屋から1階に降りて来た。
 受付にはこの宿屋『なごみ亭』の主人ビルさんが居た。

「ビルさん。今、何時くらいですか?」
「そうだな、エリアス君達が10時過ぎに戻ってきて、2時間くらいの間は物凄い大きな声がして、それから2時間くらい静かだったから今は14時くらいかな」
「え??」
 ゴ~~ン!ゴ~~ン!
 大聖堂の14時の鐘が鳴る。
「ほらな」

 聞こえていたのか。
 俺とオルガさんは2人して赤くなった。

「まあ、夜中よりは良いがここには10歳の子がいるから、ほどほどに頼むぜ」
 アンナちゃんの事ですね。
 分かりました。

 そしてビルさんに、小声で言われた。
「しかし、若いっていいよな。俺なんて2時間ぶっ続けなんて、もう無理だからな」
 あぁ、そんなにしていたのですね。
 みなさん、すみません。



 俺達は冒険者ギルドに向かっている。

 ギルドに入ると、俺は受付のアリッサさんのところに並んだ。
 もちろんオルガさんも一緒だ。

「こんにちは、アリッサさん」
「こんにちは、エリアス君。ところで、その腕に付けている重りはな~に?」
 言われて見ると、オルガさんと腕を組んでいた。

『やったわね、あなた達』
『え、何の事かしら?』
 一度そう言う関係になると、普通にしているつもりでも周りは気付くものらしい。

『この、筋肉女が!!』
『なによ、おばさん。早い者勝ちよ』

 オルガさんはなぜか、勝ち誇ったような顔をしている。
 どうしたんだろう?
 
「俺達2人に指名依頼が来ているはずですが」
「ええ、あるわよ。アバンス商会からの指名依頼ね」
「『赤い翼』も一緒でしょうか?」
「そうよ。彼らはもう先に受けたわ。6日後の朝、アバンス商会に集合よ」
「報酬はおいくらでしょうか?」
「ギルドで手数料を2割引かれるから。凄いわエリアス君。Eランクで1日8,000円なんて」
 へ?
 8,000円ですか?
「オルガさんは、隣のコルネールの所で受付してくださいね」
 なぜかオルガさんには、冷たい感じで言う。
「わかったわ」
 オルガさんはそう言って、隣の受付のコルネールさんの所に移動した。

「こんにちは、オルガさんはAランクの指名依頼なので1日15,000円です」
 コルネールさんは、とても凄いことのように言う。
 確かに平均日給3,000円のこの世界なら、高いと思うけど。

 それなら果物を採取して売っていた方がいいのでは?
 普通にこの前、果物を売って17,000円だったけど。

 俺が不満そうな顔をしているのが分かったのか、オルガさんに言われた。
「エリアス君、Eランクで1日8,000円なら破格値よ」
「そうなんですか?」
「えぇ、よく考えてみて。私達、冒険者はなんの後ろ盾もなく、働くところが無いからやっているのよ。ある意味、後が無いの。その後が無い仕事で平均日給3,000円の、倍以上の金額がもらえるなんて凄いことなのよ」

 俺は勘違いをしていた。
 生前の考えが残ってたのだ。
 前にいた世界では、贅沢さえ言わなければ働くところはあった。
 そして似たような給料の会社が多く、嫌なら辞めて他に行くこともできた。

 だがこの世界は違う。
 産業が発達していない分、仕事が少ないのだ。
 そして就職してもその雇用先が、5年後にあるかどうかも分からない。
 そんな世界なんだ。
 そ、それなのに、俺は…。

「分かったよ、オルガさん」
 俺はそう言うと笑ってみせた。

 冒険者ギルドを出ようとすると、オルガさんはまだ用事があるようだ。
 先に行って、と言われ俺はギルドを出た。