俺は誰かに肩を揺すぶられていた。

 我に返ってみるとオルガさんが、目に涙を溜めて俺の両肩を掴んでいた。

「どうしたんですか?オルガさん」
「どうしたじゃない、いきなり何かブツブツ言い始めたと思ったら、何もない空間を指で叩いて。そしたら屋敷が突然できて、裏庭の方も土が盛り上がったかと思ったら平らになって。何がどうなっているんだ?」

 見られたか。
 ついオルガさんだと、警戒心が無くなってしまう。
 それに気が付くといつも俺の側にいるから、気にしなくなってたんだ。
 言うしかないな。

「これは俺のスキルです」
「スキル?これが」
「そうです、創生魔法と言って自分の望んだものが創れます」
「えっ、望んだものが創れる?」
「ただし材料がないと創れませんけど」
「それじゃあ、森に行って木や岩や土を、たくさんマジック・バッグに収納していたでしょう?このためだったのか?!」
「ええ、そうです。中に入ってみましょうか」

 俺達はドアを開け屋敷の中に入った。

 三階建ての西洋館。
 正面を入ると中は大きな階段があり、左右はフロアに。
 一階はホール、大階段、食堂、客間、台所、洗濯場、風呂場。
 二階、三階は部屋が七部屋ずつあり、各階にもトイレが付いている。
 地下には貯蔵庫。

 トイレは水洗、台所には魔道コンロ。
 一階のお風呂場、台所や洗濯場、各階にある洗面所にも水道の蛇口が付いている。
 蛇口は混合栓にし『水』と『火』 の魔石を入れ、お湯が出るようになっている。
 照明は全て魔道具で『ライト』の魔法を付与されている。
 そして屋敷の魔道具の魔力は屋根に『魔素吸収パネル』を設置し、大気中にある魔素を吸収していることを説明。
 氷と風の術式を付与し冷蔵庫もある事を話したら、オルガさんは声も出なくなっていた。

「す、凄い、お城みたいだな。こんな豪華な設備は、王都でもないかもしれない」
「そうですか?それから毎日、お風呂に入って奇麗にしてくださいね」
「毎日お風呂に入れるのか?」
「はい、衛生面でちゃんとしないと病気になりますから」
 この世界では細菌の概念がないからね。
 地球でも3秒間なら、落としても大丈夫と言うルールはあったけど。

 それから三階に上がった。
 
「俺の部屋はここにしますが、オルガさんはどこにしますか?」
「えっ、私も良いのか?」
「もちろんですよ、仲間ですから。それに宿屋だとお金かかりますから」
「そ、そうね。それならエリアス君の隣の部屋が良いな」
「わかりました。それから食事も簡単なものなら、俺も作れますから」
「凄い、エリアス君」
「そんなことないですよ。戦闘に役立ことは何も出来なくて、こんなことしか出来ません。これからどうやって、生きて行こうかと思うくらいですから」
「い、いや~、それだけ出来れば十分だと思うが…」


 私は思った。
 エリアス君はどうやら、自分に自信が無いらしい。
 そうだよね、世間知らずで15歳。
 自分がどこまで、できるかも分からない。

 でも戦闘は出来なくてもこれだけできたら…。
 冒険者を基準に生活を考えていることが、私には分からないけど。




「王都の依頼で1週間後にはこの街を出ますから、それまでは『なごみ亭』に泊まりましょうか。そして王都から戻ってきたら、この屋敷に住みましょう」
「そ、そうだね。でもこの広い屋敷に2人きりなんだな」
「まあ、その内、人(仲間)も増えると思いますから」
「えっ?!そ、そう。頑張る…私…」
 さ、さすがに獣人が子沢山と言っても14部屋以上ある、この屋敷の部屋を埋めるほど子供は産めないかな~。
 エリアス君で子供がポン、ポン産めるとでも思っているのかな?
 世間知らずだから、そんなことも知らないのかもね~。
 そこから始めるのか…。
 お姉さん頑張るわ~。




「ちょっと疲れました。宿に帰って少し休みたいのですが」
「そうだね、屋敷を作るほど、魔力を使ったんだもの疲れるよな」
「それから屋敷の合鍵です。どうぞ」
「あ、ありがとう」
「必要な物を揃えるにしても、鍵があれば俺が居ない時でも出入りできますからね」
 そう言うと、エリアス君は笑った。


 私はエリアス君と、宿の『なごみ亭』に戻るために歩いている。
 エリアス君が、とても眠そうだ。
 そうね、お屋敷を作るれるほど魔力を使ったんだもの。
 でも魔法で家は作れたかしら?
 魔法のことはあまり詳しくないから分からないけど。


 えっ?待って。
 仮に魔法でお屋敷ができるとしても…。
 あんな宮殿みたいな建物が、作れるほど魔力があるということ?
 私も多少は剣に魔法を乗せて戦うことは出来るけど。
 あそこまで巨大な物は無理ね。

 エリアス君が簡単そうに言うから、つい簡単に思ってしまったけど。
 とてつもない逸材だわ、エリアス君は。




 私達は『なごみ亭』に戻って来た。
 その頃にはエリアス君は、もう歩くのがやっとで。

 仕方がないから私が彼の部屋まで連れて行った。
 こう見えても虎猫族だから、人族よりは力はあるのよ。

 受付に居たアンナちゃんに、私とエリアス君の部屋の鍵をもらった。

 部屋に入り、ベッドに彼を横たえた。
 エリアス君の匂いがする。
 少し彼の匂いを嗅いでいた。
 だって虎猫族だから。
 獣人にとって臭いは大事。
 好きな人の匂いは嗅いでいたいものなの。

 エリアス君の可愛い顔を見ていたら、ふざけてみたくなった。
 彼の横に私も横たわった。
 しばらく彼の寝顔を見ていた。

 すると無意識なのがエリアス君の脚が、私の脚に絡まりホールドされた。
 そしていきなり私の尻尾の付け根を掴まれた。

 きゃ~!!

 力が抜けた。
 獣人は尻尾を掴まれると、力が抜けてしまう。

 エリアス君は、掴んだ尻尾を何度も、何度も前後に動かず。

 も、も、もうだめ~~!!




 あれ?
 オルガさんの顔が近い。
 これはいつもの幻想か?

『創生魔法』で屋敷を創っている時に俺を心配して、涙目になっていたオルガさんを思い出した。
 とても愛しいと思った。

『創生魔法』で何かを創っている時は、パソコン画面の様なものが空中に見える。
 それをタップして、作業をしている。
 きっと【スキル】高速思考で物事を考えているのだろう。
 (はた)から見たら目がどこかにイッテいるはずだ。


 そしてオルガさんの目が潤んで、とても可愛い。
 お目々クリクリだ。

 耳もなぜか垂れている。
 思わず耳を甘噛みしてみた。

 あぁ~~ん!!

 オルガさんの今まで聞いた声がない、声が聞こえた。

 その瞬間、俺は疲れと15歳の肉体年齢の欲求に負け理性が飛んだ。