すっかり日も暮れて、私達は焚火を囲んでいる。
 しかし5匹のワンコ達が魔物だったのは驚いたわ。
 でも私が調教師(テイマー)で彼等を従えることが出来れば、街に入る事も可能のようだ。
 
「街に入るなら1()()が限度だな。さすがに5体だと混乱を招きそうだ」
 冒険者のゲオルギーさんが私を諭すように言う。

 1体(いちたい)
 あぁ、名古屋エリアでよく使われる呼び名で『1日体験入店』と言うことね。
 働きたいと思ったお店に本入店する前に、1日お試しで働けるシステムの名称…。
 そうね、身寄りもない今の私なら、その仕事で生活費を稼ぐしかないのね。

「あの~日給はおいくらくいなのでしょうか?」
「はあ、日給?いったい何の話しだ?」
「でも1体と…」
「それはそうだろう。こんな大きな魔物が5体も居たら、大変なことになるだろう」
 あぁ、1匹ではなくて魔物だから1体なのね。
 危ない、危ない。
 仕事を斡旋してくれる話ではなかったのね。


「そんなにこの子達は、凄い魔物なのでしょうか?」
「シルバーウルフ1体の討伐で、冒険者が何人も必要になる。まして上位種がいるなら5体で騎士団が一個中隊(約200人)は必要になるはずだ」
「はあ?」
 一個中隊と言われても実感が()かないわ。

「とても強いと言うことでしょうか?」
「あぁ、その気になれば小さな町なら十分、制圧できる強さだ」
「制圧っ?!」
「そうさ。通常、魔物はスタンピードでもない限りは街を襲う事はない。だが先導する調教師(テイマー)が居れば、それも起こりえるのさ」
「では従えている魔物が強く、まして頭数が居ると調教師(テイマー)が危険視されるということでしょうか?」
「その通りだ。よほど名の通った調教師(テイマー)なら別だが、スズカさんはまだ冒険者登録すらしていないのだろう?」
「えぇ、そうです」
「それなら実績が無いから、魔物の制御が出来なくなることも考えられる」
 そうか。5匹を連れて街に入り突然、彼らが暴れ始めるかもしれない。
 大丈夫と言う根拠なんてなかったんだわ。

「分かりました。連れて行くのは1匹にします」
「それが良いと思うぜ、スズカさん」

 私はゲオルギーさんと話し、連れて行くのは1匹だけにすることを話した。

「ごめんね、お前達。連れて行けるのは1匹だけになっちゃった」
 銀色のワンコ『それなら私が行こう』
 ワンコ部下A『兄貴、おいらが行きますから』
 ワンコ部下B『いいえ、俺が行きます』
 銀色のワンコ『駄目だ!!私はこの女に付いて行く。お前達は新しい家族を増やし、群れを大きくしていくのだ』
 ワンコ部下A・B・C・D『『『あ、兄貴~!!(泣)』』』
 銀色のワンコ『お前達!!』

 ワン、ワン、ワン、キャンキャン、ガルル、ワン、ワン、ワン、
  ワン、ワン、ガルル、ワン、ワン、キャンキャン、ワン、ワン、
   ワン、ワン、キャンキャン、ワン、ワン、ガルル、ワン、ワン、

「お前達~!!」
 私は思わず叫ぶ。

「どうしましたか?スズカさん」
 商人のヤルコビッチさんに声を掛けられる。

 あ、いえ、アフレコ中です。
 多分こんなことを言っているかもしれないと思いながら、ワン、ワン、ワンに合わせて声を当てていく。

 そんな憐れむような目で見ないでください…。