朝が来た。
 お店の戸を開けるとたくさんの人達が待っていてくれる。
「いらっしゃいませ!おまたせいたしました」
 そう言いながら店を開ける。

「本日からまた木皿に戻りましたので、食べ終わったお皿は返却台に出して下さね」
「え~!!それはないぜ」
「そうだぞ!!」
「俺はまだ紙皿をもらってないぞ~」
 お客さん達が口々に文句を言いだす。

「実は昨日、人族の人が『紙皿を売ってほしい』と見えまして、獣人の方が自慢のように冒険者ギルドなどで見せびらかしていると。獣人だから譲ってもらえた、特権だと言っていると聞きました」
 するとほとんどの獣人が顔をそむけた。

「紙皿はこちらの都合上のことで、特に特権と言うわけではありません!!紙皿の在庫もありませんので、本日から木皿に戻しますのでよろしくお願いいたします」
 そう私は宣言すると注文を受けていく。

 忙しい時間はあっという間に過ぎた。
 今は8時くらいだろうか?
 お客さんは今のところ朝で50人は来てくている。
 夜を入れれば1日80~100人くらいかな。
 1人の客単価が300~400円だから1日で2~4万円にはなる。
 家賃を払っても十分にやっていけわね。

 あっ!そうだ!!
 冒険者ギルドに素材を売りに行こう。
 シルバーの食事用にお肉を切り分けてもらおうかしら?

 私はお皿を洗いシルバーを連れて店を出る。
 道行く人達はもう慣れたのか子供が手を振ってくれる。
 私も手を振り返しそのまま冒険者ギルドに向かう。

 ギルドの中に入ると受付ジェシーさんの前に行く。
「おはようございます!ジェシーさん」
「おはようございます!スズカさん。本日はどのようなご用件ですか?今朝の依頼案件ならもうほとんど残っていませんよ」
 そうだよね。
 ある意味、冒険者は日雇い仕事だもの。
 朝一番に並ばないと仕事にありつけない、ということだよね。
 こんな時間にのんびり来るのは私くらいなものだよ、ほんと。

「薬草採取をしてきたので確認してください」
「薬草採取のクエストですね。ではここに出してください」
 ジェシーさんはそう言うとトレーを出した。
 私はその上に薬草を50本くらい出す。

 突然、何もない空間から薬草を出した私にジェシーさんは驚いた顔を向ける。
 しかしさすがギルド職員。
 顔色も変えず普通に対応してくれる。
「よく、これだけ見つかりましたね。大変だったでしょう」
 おい、薬草はそんなに見つからないのかい?
「査定いたしますのでしばらくお待ちください」
 そう言うと薬草をもって奥の部屋に消えた。

 しばらくボ~と待っているとジェシーさんがやってきた。
「査定が終わりました。椅子に掛けてお待ち頂ければよかったのに」
 それはそうだ。
 身動きしないで立ちつづける私は、周りからすればきっとアホの子に見えたろう。

「初めてのクエスト達成おめでとうございます。薬草は49本で状態がとても良いので、色を付けて4,900円のところ5,200円で引き取ります。しかしよくこれだけ見つけましたね。普通は2~5本見つかればいいところなのに…、薬草を探している間に魔物に襲われたり…、帰ってこない人も…。ブツ、ブツ、」
 どれだけ、高難度のクエストなの?

 私は報奨金を受け取りながら次の用事を頼んだ。
「あの~、素材の解体と買取、それと解体した魔物のお肉が欲しいのですが」
「解体と買取ですね。どちらにあるのでしょうか?」
 私はダミー用のポーチを叩いて見せた。
 するとジェシーさんは、『わかったわ』と言うように頷いて見せた。

「では、こちらへどうぞ」
 そう言うと買取カウンターの横にあるドアを開けた。
 部屋の中に入ると解体場のようで、大きな解体包丁が何本も置いてあった。
「おう、ジェシーさん。今日は朝からお客さんかい?」
「そうよ、マッスルさん。頼みますね」
「冒険者が戻ってくるのが早くても午後だから、この時間に仕事があるのは助かる」

 マッスルさんと言われた40代の髪を角刈りにした、筋肉だるまのような『だるマッチョ』はそう言った。
「で?解体してほしい素材はどこにあるんだい」
「マッスルさん、このことは内密にお願いしますね」
 ジェシーさんが事前に口止めをしてくれる。
「お、おぅ、」

 内容もわからないのに『秘密』にするのは、難しいだろうとマッスルは思った。