俺は冒険者パーティ『愛のダリーナ』のリーダー、ドミニクだ。
俺を含めた5人中3人は犬族、2人は猫族の獣人パーティだ。
人族の中で異種族と呼ばれ差別を受けている。
それでもまだここは良い方だ。
地域によっては働く場所さえない国があると言う。
そうなれば俺達の暮らせる場所は街にはない。
数か月前に何を思ったのかシェイラ国は、アスケルの森北部の遠征を開始した。
あの高位の魔物が多い森の開拓に踏み切ったのだ。
3,000人規模の軍を編成し進軍したが、地域を縄張りにしている火竜に阻まれ軍は敗走したようだ。
シェイラ国に戻って来れた兵士は1/3にも満たなかったそうだ。
それよりも大変なのは、兵士のほとんどは普段、農家をしている農民兵だ。
田畑を耕すものが居なくなり、男が少なければ出生率が低下する。
そしてその影響はこの王都にも出ている。
そうでなければ俺達の様な者が、必要とされる訳はなかった。
冒険者の仕事は危険が伴う魔物討伐や、護衛の仕事ばかりだからだ。
そんなある日、夕方に冒険者ギルドに戻ると、『燃える闘魂』のメンバーが居た。
話を聞くと犬猫の獣人専用の食堂が出来たと言う。
そんな馬鹿なと俺は思った。
俺たちを相手にした商売をする奴がいるのかと。
その食事は今まで食べたことが無いくらい美味しく、それに値段も安いと言う。
俺達が驚いていると『燃える闘魂』のメンバーは、これからその店に食べに行くと言う。
俺達は話し半分で、その後を着いて行くことにした。
ギルドから少し歩き道を1本入る。
すると真っ白な紙が壁に貼られ、『屋台の店シルバー』と書いてある店があった。
なんだ、ここは?!
紙は高級だ、しかもこんな純白の用紙はいくらするのだろうか?
ここの店主は盗まれるとか、思わないのだろうか。
そう思い店の中に入るとカウンター台があるだけだった。
そしてまた純白の用紙に値段を書いたものが貼ってある。
しかも文字自体もピンクや水色の文字で書いてある。
どれだけ染料にお金をかけているのだ?
「こんにちは!スズカさん。やってきましたよ」
猫族のイングヴェが、店主に声を掛ける。
すると出迎えてくれたのは10代半ばくらいで黒髪、黒い瞳の女性だった。
スズカさんと言うのか。
俺達メンバーが、それぞれ自己紹介をする。
店を持っているなら、もしかしたらもう少し歳は上かもしれない。
しかも黒髪、黒い瞳なんて珍しい。勇者の家系か?
五百年前、この大陸はたくさんの魔物が我が物顔で闊歩していた。
人類は身を潜め小さくなり生活をしていた。
その魔物討伐の為に各国は異世界より、力を持った人達を召喚した。
各国の勇者達は懸命に戦い、魔物を討伐し今の世界の礎を築いた。
勇者と呼ばれるその人達は、黒髪、黒い瞳だったという。
今では代を重ね血が薄くなっており、能力も一般人と変わらないと聞くが。
「本当に美味しいのかよ?」
俺達を相手に商売をすること自体が怪しく値段も安かった。
「いらっしゃいませ。試しに食べて行きませんか?」
店主はそう言って俺達に、愛しい者でも見るかのような笑顔で話しかけてくれた。
人族が俺達に笑顔を向けるなんて…。
なぜか顔が赤くなってしまった。
なんだろう、この気持ちは。
他の奴らを見ると同じように顔を赤くしていた。
価格表を見てもとても安く、カリカリフード300円。
ペーストの食事がワンコスペシャルと、ニャンコスペシャルで+100円か?
どんな食事なのか想像がつかない。
すると『燃える闘魂』のメンバーが、注文を始めた。
「スズカさん、俺はあのペースト状の液体をかけたワンコスペシャルを頼みます!」
犬族のジョヴァンニが頼めば、猫族のイングヴェも決まったようだった。
「じゃあ、俺はニャンコスペシャルを頼みます」
「はい~、ワンコスペシャルと、ニャンコスペシャル入りました~」
そうか彼女の名前はスズカさんと言うのか。
しかし奥に向って『入りました』と言っているが誰か他にいるのか?
そう思っているとスズカさんは、慣れた手つきでお皿に食事を盛っていく。
なんだ、やっぱり1人じゃないか。
俺達はそれぞれワンコスペシャルと、ニャンコスペシャルを頼んだ。
しかし出て来た皿に乗っているのは、乾燥した食べ物ではないか?
皿を受け取り俺達は戸惑う。
椅子が無いのだ。
するとスズカさんがこう言った。
「ここは屋台方式の店だから椅子はないの」
カウンター台をそのまま使って立ち食いをするようだ。
そして食べ終わったお皿は、お客が食器返却台に下げていく。
これなら配膳する手間が無いから、1人でも店を回していけるかもしれない。
よく考えたものだ。
そして一口食べて驚いた。
今まで食べて来たどんな物より美味しく、ついついスプーンが止まらなくなる。
ゴホ、ゴホ、ゴホ、
ゴホ、ゴホ、ゴホ、
他の奴らも同じらしく慌てて食べたためむせている。
するとどうだろう。
水の入ったカップを手渡してきたのだ。
やはりそうか、俺達を獣人と馬鹿にして、安い値段で呼び寄せ食事以外の水で高い料金を請求しようと言うのか。
そうはいくものか。
え、無料?!
俺が驚くとスズカさんも、え?、と言う驚いた顔をしていた。
わかっていないのか?
水は貴重だ。
水は長期保存が出来ずに腐ってしまう。
この国は降水量が少ないため、泉や池などの水は汚くて飲めない。
雨が降ったからといって、水を貯めておいてもいずれ腐っていく。
どうしても水が飲みたいなら、水源から新鮮な水を汲んでくるしかない。
普通はそんなことはできない。
だから比較的保存が容易な、アルコールが水の代わりに飲まれているのだ。
それを…。
この水は井戸の様な臭みが無い。
まるで河からたった今、汲んできたばかりの様だ。
城外にある遠い河から、こんな細腕で水を汲んで来ていると言うのか?
信じられん。
スズカさんは、不思議な人だ。
俺達と同族のしかも高位の匂いがする。
カウンター台の向こうは見えないから、尻尾はあるかどうかはわからないが。
スズカさんの頭の上には耳は無く、顔の両側にあるから人族のはずだ。
また明日も来てみよう。
朝と夕、店は開いていると言っていたからな。
今度は俺も同族を誘ってみるか。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
あぁ、転移してから3日。
体中からシルバーの匂いがするわ。
お風呂に入りたい~。
俺を含めた5人中3人は犬族、2人は猫族の獣人パーティだ。
人族の中で異種族と呼ばれ差別を受けている。
それでもまだここは良い方だ。
地域によっては働く場所さえない国があると言う。
そうなれば俺達の暮らせる場所は街にはない。
数か月前に何を思ったのかシェイラ国は、アスケルの森北部の遠征を開始した。
あの高位の魔物が多い森の開拓に踏み切ったのだ。
3,000人規模の軍を編成し進軍したが、地域を縄張りにしている火竜に阻まれ軍は敗走したようだ。
シェイラ国に戻って来れた兵士は1/3にも満たなかったそうだ。
それよりも大変なのは、兵士のほとんどは普段、農家をしている農民兵だ。
田畑を耕すものが居なくなり、男が少なければ出生率が低下する。
そしてその影響はこの王都にも出ている。
そうでなければ俺達の様な者が、必要とされる訳はなかった。
冒険者の仕事は危険が伴う魔物討伐や、護衛の仕事ばかりだからだ。
そんなある日、夕方に冒険者ギルドに戻ると、『燃える闘魂』のメンバーが居た。
話を聞くと犬猫の獣人専用の食堂が出来たと言う。
そんな馬鹿なと俺は思った。
俺たちを相手にした商売をする奴がいるのかと。
その食事は今まで食べたことが無いくらい美味しく、それに値段も安いと言う。
俺達が驚いていると『燃える闘魂』のメンバーは、これからその店に食べに行くと言う。
俺達は話し半分で、その後を着いて行くことにした。
ギルドから少し歩き道を1本入る。
すると真っ白な紙が壁に貼られ、『屋台の店シルバー』と書いてある店があった。
なんだ、ここは?!
紙は高級だ、しかもこんな純白の用紙はいくらするのだろうか?
ここの店主は盗まれるとか、思わないのだろうか。
そう思い店の中に入るとカウンター台があるだけだった。
そしてまた純白の用紙に値段を書いたものが貼ってある。
しかも文字自体もピンクや水色の文字で書いてある。
どれだけ染料にお金をかけているのだ?
「こんにちは!スズカさん。やってきましたよ」
猫族のイングヴェが、店主に声を掛ける。
すると出迎えてくれたのは10代半ばくらいで黒髪、黒い瞳の女性だった。
スズカさんと言うのか。
俺達メンバーが、それぞれ自己紹介をする。
店を持っているなら、もしかしたらもう少し歳は上かもしれない。
しかも黒髪、黒い瞳なんて珍しい。勇者の家系か?
五百年前、この大陸はたくさんの魔物が我が物顔で闊歩していた。
人類は身を潜め小さくなり生活をしていた。
その魔物討伐の為に各国は異世界より、力を持った人達を召喚した。
各国の勇者達は懸命に戦い、魔物を討伐し今の世界の礎を築いた。
勇者と呼ばれるその人達は、黒髪、黒い瞳だったという。
今では代を重ね血が薄くなっており、能力も一般人と変わらないと聞くが。
「本当に美味しいのかよ?」
俺達を相手に商売をすること自体が怪しく値段も安かった。
「いらっしゃいませ。試しに食べて行きませんか?」
店主はそう言って俺達に、愛しい者でも見るかのような笑顔で話しかけてくれた。
人族が俺達に笑顔を向けるなんて…。
なぜか顔が赤くなってしまった。
なんだろう、この気持ちは。
他の奴らを見ると同じように顔を赤くしていた。
価格表を見てもとても安く、カリカリフード300円。
ペーストの食事がワンコスペシャルと、ニャンコスペシャルで+100円か?
どんな食事なのか想像がつかない。
すると『燃える闘魂』のメンバーが、注文を始めた。
「スズカさん、俺はあのペースト状の液体をかけたワンコスペシャルを頼みます!」
犬族のジョヴァンニが頼めば、猫族のイングヴェも決まったようだった。
「じゃあ、俺はニャンコスペシャルを頼みます」
「はい~、ワンコスペシャルと、ニャンコスペシャル入りました~」
そうか彼女の名前はスズカさんと言うのか。
しかし奥に向って『入りました』と言っているが誰か他にいるのか?
そう思っているとスズカさんは、慣れた手つきでお皿に食事を盛っていく。
なんだ、やっぱり1人じゃないか。
俺達はそれぞれワンコスペシャルと、ニャンコスペシャルを頼んだ。
しかし出て来た皿に乗っているのは、乾燥した食べ物ではないか?
皿を受け取り俺達は戸惑う。
椅子が無いのだ。
するとスズカさんがこう言った。
「ここは屋台方式の店だから椅子はないの」
カウンター台をそのまま使って立ち食いをするようだ。
そして食べ終わったお皿は、お客が食器返却台に下げていく。
これなら配膳する手間が無いから、1人でも店を回していけるかもしれない。
よく考えたものだ。
そして一口食べて驚いた。
今まで食べて来たどんな物より美味しく、ついついスプーンが止まらなくなる。
ゴホ、ゴホ、ゴホ、
ゴホ、ゴホ、ゴホ、
他の奴らも同じらしく慌てて食べたためむせている。
するとどうだろう。
水の入ったカップを手渡してきたのだ。
やはりそうか、俺達を獣人と馬鹿にして、安い値段で呼び寄せ食事以外の水で高い料金を請求しようと言うのか。
そうはいくものか。
え、無料?!
俺が驚くとスズカさんも、え?、と言う驚いた顔をしていた。
わかっていないのか?
水は貴重だ。
水は長期保存が出来ずに腐ってしまう。
この国は降水量が少ないため、泉や池などの水は汚くて飲めない。
雨が降ったからといって、水を貯めておいてもいずれ腐っていく。
どうしても水が飲みたいなら、水源から新鮮な水を汲んでくるしかない。
普通はそんなことはできない。
だから比較的保存が容易な、アルコールが水の代わりに飲まれているのだ。
それを…。
この水は井戸の様な臭みが無い。
まるで河からたった今、汲んできたばかりの様だ。
城外にある遠い河から、こんな細腕で水を汲んで来ていると言うのか?
信じられん。
スズカさんは、不思議な人だ。
俺達と同族のしかも高位の匂いがする。
カウンター台の向こうは見えないから、尻尾はあるかどうかはわからないが。
スズカさんの頭の上には耳は無く、顔の両側にあるから人族のはずだ。
また明日も来てみよう。
朝と夕、店は開いていると言っていたからな。
今度は俺も同族を誘ってみるか。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
あぁ、転移してから3日。
体中からシルバーの匂いがするわ。
お風呂に入りたい~。