この物件は月10万だと言う。
 賃貸で家を借りても月10万くらいするみたい。
 それなら安いかも。
 立地条件はそんなに良くないから、後はどうやって集客するのかよね。
 そうだ、冒険者ギルドで宣伝をしようかな。
 それと店は私1人だから配膳は、お客様に任せるフードコート式にすればいいわ。

 あぁ、それからヤルコビッチさんに、聞いておきたいことがあった。
「ヤルコビッチさん、お聞きしたいことがあるのですが」
「なんでしょうか?」
「みなさんはどうやって時間を、把握されているのでしょうか?」
「あぁ、それは2時間おきにシャルエル教の大聖堂の鐘が鳴るので、それを基準にしております」
「では今は何時くらいでしょうか?」
「8時くらいでしょうか。とは言っても鐘が聞こえない場所では、日の出と共に仕事に出て夕暮れになると仕事は終わりです」
 それだと朝4時くらいから明るくなる夏は、夕方暗くなるまで12時間以上働くのでは?
 この国では朝早く起きて夕方暗くなる前に、仕事から帰ってくるということね。
「わかりました。ではここをお借りしたいと思います」
「ありがとうございます。それでは契約書を店で交わしましょう」
 そう言うと私達はヤルコビッチさんの店に戻った。

「はい、これで契約は終わりました。お店の看板はどうしますか?」
「看板ですか?」
「えぇ、文字が読めない人が多いので看板に絵をかいておくのです」
 う~ん、手持ちの資金が…。

「あ、いえ、お金が貯まるまで、しばらくは看板無しでやりたいと思います」
「そうですか、わかりました。私も獣人の知り合いがいますから宣伝しておきます」
「ありがとうございます」
「それから前にも言いましたが、くれぐれも目立つことはしないように」
「わかってますよ~」
「スズカさんのお持ちのマジック・バッグだけでも狙われますから」
「えっ!本当ですか?」
「マジック・バッグの容量はそれぞれですが、馬車1台分で国宝級です。きっとそのくらいは収納できますよね?」
「え、えぇ、まあ」
 底無しですけど。

「それから白くて柔らかいパン、ジャムやハチミツは目立ちすぎます。何気ないことで悪い人に、狙われることになるかもしれませんよ」
「そ、そんな~」
「強盗、殺人はよくあることですから。まして女性の1人暮らしなら尚更です」
 な、それなら宿屋に泊ります。
 あ、駄目だ。宿屋に泊って店を借りたら、とんでもない値段になる。
 ここは危険を覚悟で…。

「クゥ~~~ン」
 私の不安を感じたのかシルバーが鼻を鳴らす。
「そうね、お前が私を守ってくれるものね。頼りにしているわ」
「この魔物が守って居れば、スズカさんの店を襲う者もいないとは思いますが」
 そうだといいけど。

「何かあれば品物は私の店経由で売りましょう。スズカさんはあまり表には出ないほうが良いでしょう。それに獣人相手の商売なら目立つことはありませんから」
「どう言うことでしょうか?」
「差別ですよ。他の国に比べてこのシェイラ国は、異種族と言われる人族以外の人種が多いのです」
「はあ、」
「労働力として働ける代わりに差別があり、労働単価も安くなる場合があります」
「そんな!!」
「それが現実です。そのため彼らは生活が大変な人も多いのです。そして人族は彼らのことには興味を示さない。ですから彼ら相手の商売なら、きっとうまく行きます。他に彼らを対象にした店はありませんから」
「そ、そうですか。わかりました」

「それから1食の価格は300円くらいからにして、幅を付けて何種類か出すといいでしょう」
「300円ですか?」
「野営なら500円でもいいとは思いますが、街中ですと1食500円は大変なので…」
 あぁ一日の賃金が3,000円~5,000円だとすると、1食500円は高いか…。
 仕事があまりない人達にしてみれば、少しでも安い方が良いよね。

 それからイチゴ、ブルーベリージャムをそれぞれ2缶ずつ、1缶5万円でヤルコビッチさんに売った。
 高い気がするがガラス瓶に入っているので、装飾品と同じ感覚で富裕層に売れるらしい。
 ジャムを眺めてどうするのだろう?

 ハチミツも同様で欲しい人には価値があり、無い人にとっては値段が付かない。
 だから特定に人が対象になる商品なのでオークションにかけるそうだ。
 売れたらオークションの手数料1割を引いた金額から、2割引いた金額を手数料としてヤルコビッチさんに支払うことで話が付いた。

 う~ん。
 思った以上に取られるわ。
 でも自分では売買できないから仕方ないか。

 ジャムを売り収入があったので、ヤルコビッチさんの店で寝具を購入した。
 店を開いてもどのくらいお客が入るか分からない。
 それに1食300円でやっていけるのかしら?
 まあ最悪、ジャムが売れればそれだけ売っても暮らして行けそうだけどね。