そしてその時は突然訪れた。


「心から好きな人ができた」

 突然のルイス様の言葉が私の胸に深く突き刺さった。

 あ、そっか。
 これが婚約破棄というやつなのね。

 私はだんだんとルイス様の言葉が自分の胸に響いてきて、その言葉は全身を蝕んで苦しくて涙が溢れそうになった。
 ダメよ、そうよ。
 この時を待ってたんだもの。

 この時を待ってた……。


 ルイス様はいつも優しくお茶に誘ってくださった。
 
 ルイス様はいつもその声で私を魅了した。
 
 ルイス様はいつも私の手を取って無邪気に微笑んでくださった。
 
 ルイス様は……ルイス様は……。



 私は必死に涙を抑えながら、そっと右手を胸の前に持っていって想いを込めた。
 すると、私の右手の中はぼわっと熱くなり、やがて温かく淡いピンク色の光集まる。

「リズ……?」
「ルイス様……」

 私はそっとその光をルイス様に向かって放つ。

「最後にあなたに魔法をかけるわ」

 その光はルイス様の胸元に入っていくと、ルイス様がわずかに温かく光る。

「リ……ズ……」
「さようなら、ルイス様。あなたが大好きでした」


 私はその言葉を告げると、そっと扉を開けて部屋から出る。
 すると思いが止まらなくなったように涙が止まらなくて、私が歩いた床を濡らしていく。


 私の治癒魔法は強力だから人生で一度きりしか使えない。
 発動条件は2つ。

 一つは「私がその人を好きであること」。
 
 もう一つは……「その人が私を好きでないこと」。

 今までお互いに好きだから使えなかった。
 だけど、これであなたの余命わずかだった身体を治してあげられた。
 あなたが好きだから、これから生きて好きな人と一緒になってほしい──




「リズっ!!!!!」
「──っ!」

 声のしたほうを振り向くと、そこには息を切らして追いかけてきたルイス様がいた。

「なん……で……?」


「君のことが好きになった」
「え?」

 ルイス様は私を抱きしめて耳元で語り掛ける。

「今まで親の決めた婚約者だからって思いがどこかにあって、リズのことを本気で好きになれてなかった。政略結婚なんだからって。だけど、段々と好きになっていって気持ちが収まらなくなった」

 ルイス様がさらに力強く私を抱きしめる。

「僕は君を本気で好きになった。だから言わせてほしい」

 私の身体をそっと離すと私の前で跪き、その美しい瞳が私を捕らえた。


「リズ、僕と結婚してください」


 どうして、私の欲しかった言葉を言えるの?
 私の魔法は確かに発動したはずなのに、どうして。

「リズは魔法を使って僕の身体を治してくれたんだね?」
「え、ええ。でも私の魔法は私を好きじゃない人にしか発動しない……」
「それは違うよ、リズ」
「え?」
「その魔法はお互いに想いあっていることが発動条件だ」
「うそ……でもなんでルイス様が魔法の発動条件を知ってるのですか?」
「僕の母親も同じ魔法が使えて、それを父上に使ったからだよ」

 父上ってことは国王様。それに亡くなった王妃様が同じ魔法を使っていた……。
 じゃあ……。

「リズ」
「は、はい」
「私と一緒にこれからもいてくれますか? 隣でずっと、ずっと私と共に歩んでくれますか?」

 そんなの答えは決まってるじゃないですか。

「ええっ! 喜んで!!」