片恋ー明かせない恋心ー

桜の舞う校庭を見下ろしながらふと思い出す。



紅くなった頬を隠すように俯きながら話があると声をかけられて来てみると、呼び出した張本人である、湊がつぶやいた。


「ずっと前から好き、でした。」


そんな彼からの気持ちに私は断りを入れた。 
咄嗟に出た自分の言葉に驚きつつも気まずい雰囲気が漂う教室を後にした私自身に今、後悔している。



小さい頃から一緒にいて仲のいい友達、所謂幼なじみから衝撃の告白を受けたあの春からもう少しで一年が経とうとしていた。



誰にも言えないこの恋心。
あの時「はい」と言えていたらどんなに良かっただろうか。今更後悔していても、断ってしまった事実は変えることのできない。私と彼の間には未だ、気まずい空気が流れている。







「ひよりー!頑張れー!」「勉強頑張れよー!」

私の親友である莉子をはじめとしたクラスメイトが校庭の真ん中から教室に残る私に声をかけてくれた。大学受験を控えている私は2年生になって、こうやって放課後に勉強する時間が増えたように感じる。


他の人の邪魔にならないように窓から大きく手を振り、自分の机に積み上げられた参考書をぱらぱらとめくった。


私の他にも教室には同じように勉強している生徒が数名残る。ペンを走らせる音が心地よい。



どれくらい時間が経ったのだろうか、いつの間にか目標としている時間に到達していて帰る準備を始めた。

恋心を抱く彼がいる隣の教室を横目に見ながら廊下を一人歩く。

湊への気持ちを自覚して自然と姿を追ってしまっている。そんな自分を封印しそそくさと早足で帰路に着いた。


まだ、この気持ちは私の心の中で燻っているままだ。親友にも家族にも、誰にも明かせない。

ただ単に私のプライドが許せないのだ。
一度告白を断ってしまった以上、どうしても気になってしまう。

恋愛経験が豊富な人はこんな悩みも解決してくれるであろう。


私も何度か、彼氏がいて経験豊富な莉子に打ち明けようとしてみた

「あのね、…」

「なーに?ひより、どうしたの?」

「いや、やっぱりいいや!」

と、すぐそこまで出てきているのに言えずにいる。


家で色々な恋愛の本を読み漁り、インターネットを駆使して同じ経験をしたことのある人のブログなどを見て、たくさん勉強した。


大学受験を控える高校生がすることではないが、湊が好きという気持ちが廊下ですれ違うたび、顔を思い出すたび、積み重なっていくのだ。


一刻も早く、伝えたい、明かしたい恋心。果たして私は抱えきれるのだろうか。



悩みを抱えながら今日も学校へ。湊とは家が近く、家族ぐるみで仲が良い。

朝は2人で一緒に登校する。

気まずいのではないかと聞かれたら否定は出来ないが小学校の頃からのルーティーンなので今更変えることはできない。

生憎、この地域に住む同級生はほとんど違う高校に入学してしまった。
そのため、私は湊しか話せる人がいないのだ。
こればかりは仕方がないことだ。



「ひよりと一緒の高校に行きたい。」


決意を含んだ目で私にそう言い放った湊のことを私は忘れない。

あの時に感じた違和感が答えとして桜が印象的な教室で告白されたことと繋がる。

気づいておくべきだったのだ、物静かで、頭も良い、そんな彼がわざわざ家から程遠い高校に行きたいと言い出した意味に。

私もそんなに鈍感ではない。

愛おしい彼への気持ちで悩むことがこんなに辛いなんて思ってもみなかった、ただ彼が好きなだけなのに、

湊と一緒に歩く、体にあたるそよ風が気持ち良い。



「そういえばさー、ーーーーー。」


隣で歩く彼の横顔を見ていると胸がきゅーっと音を立てたかのように苦しくなる。
歩幅を合わせて歩いてくれる所、話す時は相手の目を見て話す所。
湊を好きになってからというもの、今まで気付くことのなかった魅力がどんどん溢れ出す。



好き、という感情すら分からなかった私が、これは恋だ!と感じることのできるくらい彼への気持ちは昂っていたようだ。自分でも心底びっくりしてしまう。



高校を卒業すると、彼の顔も、声も、感じることができなくなるのであろう。

そんなことを考えていると、吹っ切れたかのように、

「俺、上京するから、!」

と発した彼の姿を思い出した。
湊への恋心に気付いたのはいつだっただろうか。


「ひよりはさ〜好きな人とかいないの?たとえば湊くんとか」


いつものように、莉子たちと話していた時、なんとなく恋バナに発展していったことが気持ちを自覚するきっかけだったと思う。

各々、彼氏彼女の話をしている、そんな輪の中に入れず適当に相槌を打っていたのだ、はっとした時にはみんなが私のことを見つめていた。


「幼なじみとしか、見れないかな、?」


恐る恐る発言すると、ブーイングの声があがる。


「ほんとに好きじゃないの〜?」

とか、

「幼なじみとか漫画みたい!」

とか、

冷やかすような言葉が胸に刺さる。



それに私は否定することしか出来なかった。



その話の渦中である湊に告白された、なんてとても言えるような雰囲気ではかった。




しばらくして、湊を意識するようになった。

冷やかされる関係、変えなければと思えば思うほど湊のことを考えてしまう。 


そして、彼に抱く気持ちがなんなのか、という答えに辿り着いてしまったのだ。
恋、というものに気付いてからめっきり、湊と学校で話す時間が減ってしまった。


元々、クラスが違うとはいえ登校する時間にプラスして学校でも廊下で会うときには話していたし、図書委員である彼に、良い本を教えてもらおうと積極的に話しかけていたと思う。


告白を断ってしまったあの日からしばらく経ち、湊も吹っ切れて「当たり前」の日々が戻ろうとしていた時だ。



恋心に気付いてしまったのは。



嬉しそうに本を紹介する湊が窓から降り注ぐ太陽に照らされて一際輝いているように見える。
今思えば、あの頃から私は恋していたのかもしれない。


湊への罪悪感で自ら話すきっかけを無くしてしまった。


何かを察すような湊の顔が忘れられない。


どうか、待っていて、行かないで、

高校卒業と同時に離れてしまう、それまでに伝えたい。
そう願っても一歩踏み出せない、もどかしく、自分勝手、このわがままを許してほしいと思う。


ただ、あなたが好きだから。