その夜、丹華は夢を見た。

 真っ白い雲の上のような場所に、ひとりの男が立っている。
 まばゆく輝く黄金の髪。優雅に肩から流れ落ちる長い髪は先にゆくにつれ炎のように赤みを帯びている。極彩色の衣を纏った、世にも美しい男だった。

 知らない男なのに、不思議な既視感と懐かしさがある。同じ夢を何度も見た気がする。
 男は夜光貝の螺鈿(らでん)のように五色に揺らめく瞳で丹華を見た。

『可愛い丹華。一体いつ私のものになるのかな』

 まるで情人(こいびと)に愛をささやく風に。ひどく甘い声音は丹華をどきりとさせた。彼の目に覗き込まれたら思考まで筒抜けになってしまいそうで、小さく首を左右に振る。

「わたしは誰のものでもないわ」

 丹華は丹華自身のものだ。心も、身体も。
 けれどもし、この美しい男に乞われたら――自分は魂すら差し出してしまうかもしれない。そんな陶酔めいた予感が全身を駆け巡る。
 しかし男はただ優しく微笑むばかりで、何も求めてはこない。代わりにそっと、白く長い指で丹華の頬をなでた。

『お前が望めば、いつでもわが宮に迎え入れてやろう。丹華、お前が私の愛に浴し魂の(つがい)となる時を待っているよ』