ドンッ!
「あ、すんません!」
廊下を歩いている最中、2人の体が当たる。
私と体が当たった男は慌てて振り返り、こちらを見つめた。なんとなく男の体と当たった自分の肩を見る。
「あ、痛かった?ごめんな」
私は首を横に振り、その場を立ち去り、教室に戻ろうとした。しかし、男は気にせず私を呼び止めた。
「待て…あんた、クラス同じだよな?高校から編入?名前は?」
質問攻め。思わず眉間に皺がよるが、低い声で答える。
「…編入生。青鷺(あおさぎ)瑠璃(るり)。クラスは…」
ちらりと男の胸元を見るが、名札は付いていない。付いていたところで誰か分からなかった思うが。どうしようか考えていると、男は、
「あーやっぱり!居たなーこんなやつって思ったんだよな〜」
なんだこいつは。なぜか自慢げなのがもっとイラつく。私の思考した時間を返せ、と勝手に思うが、声には出さず、では。と会釈し去ろうとするも、男は「どこ中?」とか、「名前かっこよ!漢字でどう書くの?」とか阿呆みたいな声で聞いてくる。というか何で名前覚えてるんだ。自己紹介の時軽く言っただけなのに。
怒涛の質問攻めに困惑する私の様子にやっと気づいたのか、男はハッとしたように頭を掻きながら
「あっすんません!いきなりタメはキツいっすよね!」
違う。それもそうだが、そこでは無い。
立て続けに男は言う。
「あー後、俺の名前は緋居(あかい) 杙凪(くいな)っす!よろしく」
私よりも漢字分からないだろうこの人の名前。…何はともあれ、これで話は終わりか?さっさと教室に戻りたい。何より気まずい。話を切り上げようとまたも会釈し去る。
やっと開放された。
「あ、一緒に戻ろーぜ」
くそ!何なんだこいつは!!
同じクラスとはいえ、殆ど初対面だが、この男が非常に面倒くさい男だということはよく分かった。
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「はぁ…」
思わず溜め息が出る。入学して2週間が経とうとしている今日、グループワーク以外で初めて人と話した。疲れた。これだから人と話すのは嫌なのだ。
「…さぎ、青鷺!」
大きい声。驚いて「はいっ!?」と間抜けな声が出る。瞬間、一気に顔が熱くなる。恥ずかしい。クスクスと笑う声が聞こえる。ちらりと前を向くと大声の主である担任も笑っていた。皆が私を見ている気がする。
怖い。怖い。怖い。一気に熱が悪寒に変わる。苦しくて息がしづらい。まずい、このままではまた…
「せんせー、掃除したくねーっす」
また男の声。この声は、緋居?
「1番汚してる奴が言うな!」
担任が笑い混じりで言う。それと同時に先程とは違う種類の、明るい感じの笑い声がちらほら聞こえた。注目が私から逸れたと考えると少し落ち着いた。