どのくらい時間が経過したのかわからないけれど、リアムの胸の鼓動が届くぐらい強く抱かれて、やっと安心できた私。きっと彼も同じ想いだろう。
 やっと私を解放して肩を抱き、一歩下がって王に膝を着こうと思ったら、アレックスは「そのままでいい」と言い、壊れた神殿の固いベンチに私達三人は移動した。

 もう星が出ている。少し落ち着いた涙目フレンドが離れた場所で、ジャックとシルフィンに撫でられながらちょこんと座ってる。今にも駆け寄って抱きつきたい気持ちを押さえ、私はアレックスの言葉を待った。
「怖かったろう。申し訳なかった」アレックスが私の胸元をそっと触ると、ナイフで切られた傷跡がスーッと消えて痛みも跡もなくなる。やっぱり魔法って不思議。
「リアムがリナを好きになったのは、すぐわかった」
 単刀直入に王に言われ、リアムの身体がピクリと動く。
「いつも冷静なリアムがリナの前では乱れて落ち着きがなく、ずっと目でリナを追い、私がリナを王妃にしようと宣言した時のリアムの顔は……おもしろかった」思い出したようにアレックスはまた爆笑し、リアムはぐうの音も出ないほど打ち負かされている。闘いは得意だけど、恋愛ネタで突っ込まれるのは不得意らしい。

「リアムには幸せになって欲しい」
 じんわりと真冬に飲むホットワインのように、アレックスの言葉は優しく温かかった。
「リナ。私達はずっと子供の頃から一緒で、兄弟のように過ごしてきたのだよ。遠慮なくケンカもよくする仲だった」
「王……」
「もうアレックスでいい」軽く手を上げて抑えるようにアレックスはリアムにそう言った。
「それが私達の両親が殺され、私が背中に大きな傷を負った日から、リアムは変わった。自分を犠牲にして私の為だけに生きようとしていた、私は忠実な部下を持ったけど、私は大切な兄弟を失ってしまった」
 アレックスの目線が遠くを見るので、私は王の孤独を感じてしまう。
「ここだけの話だが……今回の闘いは負けるだろう」 
 いきなりの敗北宣言に私とリアムは目を合わせて驚き、思いっきり否定しようと思っていたら、アレックスが私達に目線を合わせる。
「だから私は、堂々とリアムに幸せになって欲しい。私に遠慮して隠れてコソコソと互いのベッドで愛し合ってるのだろう」
 そこまでわかってた?頬がカーッと熱くなる私。
「どこで自分の気持ちを出して、私に宣戦布告するかと思えば情けない」
「しかし……」
「しかし……何だ?言ってみろ」
 アレックスに遊ばれてます。その様子が楽しくて笑ったら、アレックスも笑う。するとリアムも笑顔を見せてくれて三人で声を出して笑った。冷たい夜風が心地良くて、ずっと離れていた懐かしい大好きな同級生と会ったような気持ちになって、ずっとずっとこのまま三人で笑っていたかった。時間が止まって欲しかった。

 それくらい意味のある大切な時間で、こんなに楽しく嬉しい時間なのに、終わりが怖くて切なくなった。