左手にはアレックスのお母様である亡き王妃様からもらった指輪をはめ、右手にはリアムからもらった彼のお母様の指輪をはめる。両方の指輪を重ねたら、魔王を一発でやっつける事ができる超強烈ビームが出てきたらいいのに。
「何をしてるんですか?」
「いや……ちょっとお試し」
ごまかし笑いをしながら、私は中指同士を離してジャックと一緒にアレックスの仕事を見つめる。
剣の稽古を終わらせた後、私はフレンドに乗って、ジャックと共にアレックスの元にやって来た。アレックスは壊された神殿の中央に立ち、街の外れにとてつもなく大きな大きなドームを作っていた。彼が指揮者のように手を動かすと、細かなパーツが宙を動き、複雑なパズルのように建造物に組み込まれてドームに近づく。
見晴らしの良い丘は秋の風が吹き、黄昏がアレックスの美しい髪を照らす。その端整な顔と佇まいはギリシャの彫刻のようで、壊された神殿に調和されている。アレックスの隣にはシルフィンが付き添い補助をしていた。
私とジャックは少し離れた場所でそれを見守る。何か手伝いができればいいのだけれど、本当に見守る事しかできない。剣の腕も上がらないし、リアムとあんな関係になったけれど、剣の先生は厳しくてドS上司って感じ。元からツンデレなんだろうな。フレンドのたてがみを撫でていたら、疲れたのかドラゴンは寝てしまった。可愛いな。
「秋の祭りの前に、挙式をされたらどうでしょう?国民の士気も上がりますし、リナ様の幸せな姿を早く見たいです」爽やかジャックにそう言われたけれど、それが自分とアレックスの話とすぐ繋がらなかった。それほど私の心はリアムにあるのかもしれない。
みんなの前で王様にプロポーズされてしっかり受けたのに、しっかり裏切ってます私。反逆罪で死刑かもしれません。全てが終わってからアレックスに報告しようと思ってる。今は彼も忙しい。みんな忙しい……いや、逃げているのかな私は。ため息をするとジャックに心配そうな顔をされてしまった。ごめんごめん。
「国民でも、挙式をする人が増えてます」
「そうなんだ」わかる気がする。何があるかわからないから、愛する人と繋がりたいよね。
「ジャックは?」
「自分ですか?自分は……いいんです」ジャニ系青年の目がアレックスの隣にいるシルフィンを熱く見る。
「告白して、プロポーズしちゃえば?」軽く本気でジャックに言う私。
いつも明るく爽やかで優しいジャック。リアムを心から尊敬していて、こんな私にも最初から優しかった。ジャックにも幸せになって欲しい。
「シルフィンが好きなんでしょう?」
「はい」
青年は素直に返事をする。そして
「でも彼女の心は王様にありますので」そう追加する。
その声は優しいけれど、とても寂しく聞こえた。