部屋の隅から黒いミストのような物が流れ、うっすらとした人影になり私に迫ってきた。
 声が出ない。ガタガタと震えて恐怖に包まれる。人影は遠慮なく私の上に覆いかぶさり、冷たい感触を首に感じたと思ったらグイグイと強く絞めてくる。

 見えない顔が笑ってる。とにかく痛くて苦しくて息ができなくて、怖くて頭がしびれてきて、意識が遠ざかり目がかすんだ時
 扉を蹴破る大きな音が聞こえて、シルフィンのナイフが黒い影を捕える。私は解放されて咳き込みながら、叫び声を上げる黒い影のラストを見ていた。シルフィンは呪文を唱え、同時に現れたリアムがとどめの剣を振り上げて黒い影を刺すと、私を殺そうとしていた影は一瞬で消えてしまった。

「リナ様!」
「リナ!」
 ふたりの顔を見たとたん、ボロボロと安心して涙を流す私。
「悪霊です。大丈夫ですよ、もう退治しました。もう消えました。ケガはないですか?」
 ありがとうって言いたいけれど、締められた喉が痛くて返事ができない。涙だけがとめどなく溢れるだけ。
「リナ様」
 心配して泣きそうな顔になってるシルフィンをなだめたいけど、泣くしかできないなんて情けない。
「リナ様。どこか痛い場所はありませんか?」
「シルフィン戻れ」リアムの大きな手がシルフィンの肩をそっと触り、目線を扉に向けた。シルフィンはしばらく考えてから「お願いいたします」と言い、静かに部屋から出て行った。

 部屋に残されたのは私とリアムだけ。
「ケガはないか?」リアムの言葉に私はうなずく。
「今日は月が綺麗だな」
 優しい声を出し、リアムは窓の外を見つめる。
 眠れない寂しい夜が、優しい夜に変化する。
「怖かったろう?」
「うん」
「もう大丈夫だ」リアムは笑顔を見せて、私をソファからお姫様だっこしてベッドに寝かせ、自分も私の隣に横になり私の身体を抱きしめた。