「アレックスは順調?」
「今月末には完成する」
 アレックスは一昨日から大きな大きなドームを作っている。そこに強く魔法で結界を貼り、魔王が来る日に国民を集めて守るつもりだ。魔力をたくさん使うから、身体に負担もかかってるはず。シルフィンが付いて回復の呪文をかけてるようだけど、大丈夫だろうか。
「リナは剣が上達する事だけ考えろ。お前の剣しか魔王を倒せない」
「リアムに言われると重いわー」
「剣は軽いのだろう?」
「そうじゃなくて……いや、いいです」現代語は通じないか。
 苦笑いしてワインを口にする。本当にこの国のワインは美味しくて感心してしまう。あっちの高いワインと比べても、こっちの方が絶対美味しい。

 あっちのワインであっちの国。もうすっかり、こっちの人になってる私。
 あぁなんか今日はダメだー。ガックリ気落ちする。マグカップを持ちながら体育座りで顔を下げ、小さく丸くなってしまう。
「リナ?」
「ごめん。3分だけ落ち込ませて。ポンコツ救世主でゴメン」
「そのポンコツの意味がわからないのだが」
「えーっと、ダメダメってヤツ」
「リナはダメじゃないぞ」
「ありがとう」うつむいたまま礼を言う。
「リアム」
「何だ?」
「私がこっちの世界に飛ばされてしまったけど、あっちの世界ではどうなってるのかな?私が消えた形になってると思う?仕事も途中でみんなに迷惑かけてるかもしれないね。家族や友達が心配して探してないかな」
「王と、その件について話をした夜があった」
「そうなの?」
「王が言うには『リナの世界はそのままだろう』と、言っていた」
「というと?」
「根拠はないようだが、あちらではもう1人のリナがいて、普通にそのまま過ごしている気が私もする。だからもう1人のリナがこちらに現れたと思っていいと思う」
「あー何となく、そう言われたら、そんな気がしてきた」
 棒読み口調で答えてしまう。私もそう思う。向こうではそのまま、もうひとりの私が普通に現代を過ごしているのだろう。だから家族も両親も泣いてないだろう。よかったような虚しいような気分。

 私だけがこっちに飛んで来てしまい、もう向こうには帰れないまま王様の嫁になってしまうか、死んでしまうんだろう。急に悲しくなってきた。勝つか負けるかわからないし、自分にかかってると思ったら、全て捨てて前の世界が恋しくなる。そんな気持ちがポンコツなのだろう。