剣の先生は今日も怖い顔をして、容赦なく私を指導する。
「身体の軸が曲がってる!動きが遅い」
 大きなオリーブの木がそよそよ動き、お昼寝に丁度いい風がなびいているのに、私はリアムに怒られながら剣のお稽古だ。

「腰が入ってない。基本の形を思いだぜ!」
 身体を動かすのは大好きで運動神経はいいと思ってたのに、剣なんて触る機会はないから身体も戸惑ってばかりだ。基本ももちろんなってなく、初歩の初歩から教えてもらっている。剣を上達する魔法をアレックスにお願いしたら、金貨の山に突き刺さっていたこの魔法の剣には効かないらしく、私は魔法なしの自力で修行をするはめになる。悲しいお知らせ。自力じゃ無理。思いっきり後ろに転ぶと、リアムは大きなため息をついて手を差し出した。

「ため息するなら、見えないようにしてくれる?」
 差し出された手を無視して立ち上がり文句を言うと
「そこまで気を使ってたまるか」って言われてしまった。
 くっ……くやしいーーー!!!
 現代人は打たれ弱いんだから、もしリアムが上司なら、心が折れる部下がいっぱいいそう。逆にこのドSがいいって頑張るかな。アレックスが優しすぎるから、バランスが取れて丁度いいのか。

 それにしても、剣の稽古って難しい。呼吸を整えてから、背筋を伸ばしてリアムに向かう。魔法も使えないポンコツ女子だけど、今はヤルしかない。私の覚悟が通じたのか、リアムも満足気な笑みを浮かべた。こんな時に不謹慎だけど、リアムと通じ合ってる気持ちになって嬉しくなる。早くラスボスやっつけて、心から嬉しくなりたい。でもやっつけたら、私はアレックスと結婚してこの国の王妃様になってしまう。そのラストはハッピーエンドなんだろうか余計な事が浮かんでしまい、またリアムの剣に追い込まれて転んでしまった。

「集中しろ!」
「すいません」
 落ち込んで膝を抱えて座り込むと、目の前に白ワインが差し出された。
「休憩だ」
「ありがとう」リアムも隣に座り、彼が魔法で出してくれたワインを味わう。

 あぁ美味しい。空を見上げると、どこまでも青く高い。そしてドラゴンと鷹が楽しそうに泳いでいた。フレンドとジャックだな。
 優しくそよぐ風木漏れ日から射す光が、リアムの長い髪を輝かせる。
 こんなに平和なのにね。