「素晴らしいピアノ演奏をありがとう。リナのおかげで勇気を持てた」
「アレックス」
「私の大切な救世主。必ず私達は勝利して、幸せな花嫁にしよう」
 アレックスとシルフィンの姿はアッと言う間に目の前から消えてしまった。早っ!風のようだ。残ったのはリアムと私だけだった。ふたりだけ。
「部屋まで送ろう。剣を持て」
「はい」言われるまま剣を持ちリアムの前に立つ。
「明日から剣の練習をする。いいな」
「はい」
 嫌って言えないでしょう。この剣はきっと私にしか使えない。

 なんかため息しか出ない。みんなヤル気満々で、やっとアレックスが立ち上がったのに、救世主が何もできない私なんてガッカリだよね。

「リナ」
「ごめんね」
 私が謝るとリアムは「何だ?」と上から聞く。私は重い気持ちでリアムの礼服のボタンを見ながら話をする。恥ずかしくて顔なんて見れない。その恥ずかしいは照れるじゃなくて……自分に呆れての自虐的なものだった。
「こんな私でごめんなさい」
「こんなとは?」
「さっきリアムも言ってたじゃない。リナは魔法も使えないポンコツだって」
「ポンコツとは?」
 あ、ごめん。ポンコツは通じなかったか。笑っちゃう。

「私は何もできない。瞬間移動もできないしペンさえも動かせない。剣だって使えない。練習してもきっと上達しないで下手で終わりそう。恥ずかしいくらい何もできない。たまたま剣を抜いたけど、私が抜いてごめんなさい。もっと魔法が上手で完璧な人が抜く予定だったのに」
「リナ」
「戦いなんてした事ないし、見た事だってない。絶対足手まといになっちゃって迷惑かけて、そして戦うなんて怖くてできない」つい本音が出てしまう。アレックスに聞かれたら悲しい顔をさせそうだ。足が震えて身体もガクガクしてきた。
「私には無理だよ。絶対無理だよ。リアムだってそう言ってたでしょう」
「リナ」
「私なんて……」
「リナ!」
リアムが私より大きな声を出し、崩れる私を抱きしめた。

 ぎゅっときつく強く優しく、守るように私を包み込むから震えが止まる。

「巻き込んですまない」私より苦しそうな声で謝るリアム。
「必ず。必ず俺がリナを守る」もう一度ギュッと抱きしめてから、そっと身体を離して私の頬を触りジッと目を見つめる。嘘偽りのない澄んだ瞳。
「リナを巻き込みたくなかった。それは本当だ。俺も王様も本当は巻き込みたくないのだが、リナの力が欲しい」
 凛とした声は真実しか言わない。