『おめでとう』と口々に言われて人の波にもまれる。
「リナ様」シルフィンが泣きながら抱きついてきた。
「おめでとうございます。大好きなおふたりのご結婚が嬉しいです」細い身体にぎゅーっと抱きつかれ、愛しさがこみ上げる。
「ピアノ曲を聴いて泣いたのは初めてです。感動しました、ありがとうございました」
「シルフィンの魔法のおかげだよ」
 靴といいピアノといい、ひとりじゃ何もできない私です。全てシルフィンにお世話になりました。
「今日は素晴らしい日です」
 シルフィンの言葉の後に花火の音が聞こえ、大きな窓から外を見ると大輪の花火が上がっていた。城の中庭で遊んでいる子供達の歓声が聞こえる。
 私はふらふらとベランダに出て、空を見上げる。なんて綺麗な花火なんだろう。一瞬の美しさが儚い夢のよう
 
 アレックスのプロポーズを受けてしまった。もう、自分の居た世界には戻れないかもしれない。王様の嫁になり
妃となって城で暮らす。異世界からの玉の輿だ。シンデレラもビックリのサクセスストーリー。アレックスの嫁になりたいフレンドに知られたら号泣されそうだ。ごめんね。あんなに素敵な人にプロポーズされたのに、ときめかないのはどうしてだろう。逆に心が苦しくて泣きたくなる。
 ベランダの下を見ると、リアムが石垣に背を預けて空を見上げていた。そして私の視線に気付いたのか顔を上げ、私の顔をジッと見つめる。
 喧噪の中でふたりの視線が絡み合う。

 ずっとずっとリアムを見つめていたかった。このままずっと、永遠に時が止まればいいのにって思った。リアムは若い部下に呼ばれたのか、私にお辞儀をしてその場から去ってしまう。他人行儀にお辞儀なんてしないでよ、寂しくなるでしょう。
 涙をこらえて、私はキラキラしたお祝いの場所に自分から戻った。



道は分かれてしまったのだろうか。