その場からそっと離れて会場をひとり歩く。リアムを見つけたけど、若い騎士団たちと打ち合わせなのか、真剣な顔で話しをしていた。忙しいね。頑張って。知らない人にワルツを誘われたけど丁寧に断り、美しい音楽が鳴る方に呼ばれて歩く。2つのバイオリンとチェロとビオラで奏でる弦楽四重奏。なんて綺麗な調べなんだろう、知らない曲だけど、どことなく懐かしく美しい。どんな人達が演奏しているんだろうバッハとかモーツアルトとか、そーゆー芸術肌な人達かなって、思っていたら。

 楽器が演奏していた。
 透明人間が演奏しているように、楽器が勝手に動いて演奏していた。エコだわー。人件費節約かしら?魔法って夢がないわー。それでも機械仕掛けみたいで楽しい。感心しながら見ていると、シルフィンが「リナ様」と駆け寄って来てくれた。小柄で顔も声も全て可愛い。あっちの世界に連れて行ってアイドルにさせたい!

「王様とお似合いでした」興奮状態で突っ込まれた。
「ありがとう。シルフィンが靴に魔法をかけてくれたおかげだよ」
「リアム様ともお似合いでした」
「ありがとう」
 一曲だけだったけど、リアムにリードされて踊れて幸せだった。
「そういえば、さっき面白い話を聞いたの。特別な部屋があるんだって?」シルフィンなら何でも知ってそう。
「えーっと。きっとそれはお宝部屋だと思います」
「お宝部屋?」
「王様の誕生日だけ扉が開きます。金銀財宝がいっぱいの部屋です」
「今日も開いてるの?こんな日に開いたら、悪い人だっているかもしれないよ。盗まれちゃう」みんな善人とは限らないでしょう。街で泥棒とか見かけたし、事件になったら大変だ。
「大丈夫です。部屋の中の財宝には魔法がかかってます。自分の欲で盗んだ品物は部屋を出た瞬間、毒のある小さな蛇に変身して盗んだ人物に噛みつきます」
「それってリスク高い!噛まれたら死んじゃうの?」
 せっかく盗んでも蛇になって噛まれるなんて怖っ!
「死にませんが、一晩中身体に湿疹ができて、身体中がかゆくなります」
「かゆいの?」痛いじゃなくて?
「はい。王様が決めました。痛いより、かゆい方が辛いからって」
 どっちもどっちだけど、なるほど、たしかにかゆいのは辛い。
「でも気持ちが強くて、その理由が正しければ蛇に変わりません。そのままお宝になって自宅に持って帰れます」
「そっか。さっきね、プロポーズに使うからルビーが欲しい人がいるって聞いたの」
「その方は成功します。自分の欲はダメですが、人に対する気持ちが正しければ大丈夫です。子供が優しさで母親に小さな宝石をプレゼントするパターンも成功してます。後からリナ様もご案内します」
「ありがとう」楽しみです。本気で心配する私を見て、楽しそうにシルフィンは笑っていた。