シルフィンとはぐれてしまった。
 人が増えるほど、悪いモノが入り込む危険もあるから彼女も忙しいのだろう。寂しいけれど美味しいごちそうを食べながら舞踏会見学だ。こんな機会はめったに、いや、間違いなく私の人生にないのだから目に焼き付けよう。きらびやかな世界を見ながら、ローストビーフを食べる私。贅沢だなぁ。デザートのプリンが美味しくて2個目に手を伸ばしていると、人が増えて来た。
 今宵は国民にも城が解放され、街の人達もそれぞれにおしゃれをして、王様にお祝いを述べることができるのだ。
「リナかい?なんて綺麗なんだ」
「上手く化けたねぇ」粉屋のご主人と宿屋のおかみさんが私に話しかけてきた。知ってる顔が増えてきてホッと一安心。すっかり町に馴染んだな私。
 人が増えるほどに気のせいか、ホールが大きく拡大されてゆく。どこまで広くなるのだろう。ドーム越えしそうで怖い。領主様とか他の国のお客様達が落ちついた頃に、国民がホールに入れる仕組みになっているようだ。お誕生日は誰でもウェルカムなんだね。太っ腹だわアレックス。

「王様の誕生日だけ私達もお城に入れるんだよ」
 シェフの魔法でテーブルの上の料理は、エンドレスで減る様子がない。全てが美味しくて食べ過ぎてしまいそう。
「そして特別な部屋に入れる日。どこのお姫様かと思ったよリナ!」
 ワイングラスを持って、私達の会話に入り込んだのは肉屋のご主人だった。
「特別な部屋?そんなのあるの?」
 私が聞くと、みんなはニヤニヤ笑ってる。
「今年は成功者はいるかな?」
「鍛冶屋のボブはどうだろう?小さなルビーをもらえたら指輪にして、スザンヌにプロポーズしたいって意気込んでいたから」
「それはいい願いだ」
「私も店を大きくしたいから、金貨が欲しいんだけど」
「それはダメだな」
 みんなで盛り上がってるけど、私には何が何だかわからない。説明してもらおうと思っていたらアレックス現れた。
 主役の登場にみんなは頭を深く下げるので、私もつられて頭を下げる。
「顔を上げなさい。今日は無礼講だ」
 穏やかにそう言われて、みんなは顔を上げてアレックスにお祝いを告げる。みんなは少し緊張しながら、尊敬の目でアレックスを見ていた。そのまなざしだけで、どれだけアレックスがみんなに好かれているのかわかる。