その姿を見て切なくなるのは何故だろう。
 唇を噛んでジッとリアムを見つめていたら「ここで降りなさい」と言われて、いっきなりアレックスは私をドラゴンの背から突き落とした。
 きゃーーー!!無理無理無理っ!私は飛べませんーーー!!途中下車させないで下さい!顔面蒼白でどんな超スピードで落下するかと思ったら、アレックスが魔法をかけたのか、私の身体はフワフワと見えないパラシュートが付いている動きでゆっくり落ちて行く。
 リアムはいきなり落ちてきた私を見て、驚いて立ち上がった。
「落ちてる落ちてる」パニックでわかりきった実況説明をする私の身体を、リアムはすっぽりお姫様だっこで受け止めた。至近距離で見るリアムはやっぱりイケメン。
「ケガはないか?」
「……ありがとう」
 リアムは私を抱いたまま、そっと流木のイスに腰をかけて、また海を見つめる。
 リアムの胸に抱かれたまま。私も海を見つめる。

 静かだった。
 会えばケンカの私達なのに、ふたりとも何も言わず、私は安心して彼の身体に身を預け、彼は私の身体を優しく受け止めていた。規則正しい波の音がどこか寂しげに感じてしまうのは、リアムの心が寂しい気がするからだろう。
 太陽が西に傾く。遠い果てまで続く海を上から見ていたのに、今は水平線しか見えない。
「俺は……無力だ」ため息混じりの声が私の胸を苦しくさせる。

「王の背中には、大きな傷がある」
「アレックスの?」
「20年前の傷で、邪悪な魔法の剣で斬られたから今でも清めている」
 お互いの両親を失った悲しい戦い。
「俺は声も出せずに腰を抜かしていた。あの時に戻って自分を殴りたい」
「子供だから仕方ないよ」
 どこまでも厳しい人だ。
「敵が獲物を見つけて笑いながら剣を上げた時、王が俺をかばって背中に傷を受けた」
 アレックスが?子供なのにすごい勇気。
「王は生死をさまよったが生きてくれた。その時俺は自分に誓った。これから何があっても、自分の命に代えて王を守ると」
「リアム」
「王には幸せになってもらいたい」
「アレックスの幸せは、リアムの笑顔だよ。あとシルフィンもジャックもフレンドも。自分の大切な人達や、国の人々の笑顔と美しい自然が守られる事が幸せだと思う」
 私がそう言うと、リアムはちょっと驚いた顔をしてから、笑顔を見せてくれた。