海の上で波が大きく動き、そのあおりをうけてフレンドも揺れている。巨大なるタコが8本の手を動かしてクジラを捕えようとするけれど、クジラは巨体を海に潜らせながら大きな尻尾で反撃する。タコVSクジラは迫力スゴすぎて、大スペクタクル映画になっていた。
 怖がるフレンドのたてがみを撫でながら「いつものじゃれ合いだよ」とアレックスは言うけれど、巻き込まれそうで怖いわ。フレンドは涙目になり一目散で浜辺に戻る。逃げるが勝ちだよね。
「これからが面白いのに」
「怖いから嫌です」
「私と一緒なら怖くないだろう?」そっと肩を抱き甘い言葉を囁く王様。あまり迫らないで下さい。フレンドが嫉妬して落とされてしまう。
「リナは向こうで恋人は?」
「いたけど……振られました」
「こんな素敵な女性を?」
「いえいえ。私はぜんぜん素敵じゃないけれど、私より素敵な人と出会ったみたいです」
 割り切って簡単に話ができる。あれだけ心の中でモヤモヤして、引きずっていたのに、今は他人事のように素直に話ができた。なんだかこの世界に来てから、割り切る事が多くなった。そして自分が素直になっている。
 時間に追われる事もなく、ネットに振り回される事もなく、上司と後輩に気づかう事もなく、心と身体が解放されていた。
 目を閉じて湿り気のある海の香りを感じる。空は青くて、山は緑で、海も青い。当たり前の色がこんなにも鮮やかな世界。
「目の前にリナを振ったその男がいたら、私がすぐ石にして砕き、クラーケンのエサにするだろう。いや、生きながら獣虫のエサにしよう」
 アレックスの言葉に笑ってしまう。笑える私は幸せだ。
「アレックスは結婚しないって言ったけど、舞踏会で素敵な出会いがあるかもしれませんよ」
「どうかな?私よりもっと心配な男はいるが」アレックスは私にそう言いながら地上を指さし、フレンドに低空飛行を命じると、フレンドはゆっくり下降し、砂浜で海を見つめる人影の上をグルグル周る。

 リアムは今日も海を見つめて、救世主を待っていた。