空が近い。
 急上昇からの急下降で、私はフレンドの角にしっかりしがみつく。
「リナを乗せて喜んでいる」悠然と風を受け語るアレックスの腕の中で、私は必死だから笑顔も引きつる。
 飛行機以外で飛ぶのは初めてなので、お手柔らかにお願いします。
「フレンド。リナが怖がるからゆっくり動きなさい」アレックスが言うけど、フレンドはそれを無視して得意になってまた急上昇。人の話を聞きなさいっ!酔う……ドラゴン酔いする。
 半泣きでシートベルトなしの恐怖と闘ってたら、アレックスが地上を指さす。
「見てごらん」
 アレックスの声に誘導され下界を見ると、その美しい景色に心が躍る。
 綺麗に整理された石畳の道路におもちゃ箱のような家が並んでいた。レゴブロックの世界だ。遠くの山の緑が綺麗に輝いている。斜面に並んだぶとう畑が美しい。海岸線がよく見える。海風が気持ちいい。
 太陽が西に近づいている。フレンドの背から黄昏の街を覗いているみたい。
 全てを忘れて、風を感じた。
 背中で騒がなくなった私をつまらなく思ったのか、フレンドはマイペースにゆっくり空を泳ぎ出す。ちょっと慣れた私は龍の背を楽しみ始め、アレックスは金髪の髪をなびかせ優雅に微笑む。最高の時間だ。

「海が波で輝いてますね」なんて綺麗なんだろう。
「水平線の奥にクジラが見えるかい?」
「えっ?本当に?」
 浮かれる私の声に応えて、アレックスはフレンドに耳打ちし私達は水平線に向かった。

 海岸のその先はどこまでも海。果てしなく海。
 私達の真下で噴水のような水しぶきが上がり、怖がり泣き虫ドラゴンは情けない声を出す。アレックスは優しくフレンドを撫で、私は大きなクジラに目を見張る。ここでホエールウォッチングができるなんて、それも空の上からとは、なんて贅沢なんだろう。
 迫力のあるクジラの動きを見ていたら、もう1匹現れたのか水面が黒くなる。2匹並んで泳ぐ図が見れるのかなってワクワクしてたら
 それはクジラじゃなくて
 大きな大きな……タコだった。タコ?
「クラーケンが現れた」アレックスがサラッと言う。
 クラーケンって、ディズニーの海賊映画で見たかもしれないけど、本当にいるとは怖っ!