「お待ちしておりました救世主様。我が国と王を救って下さい、偉大なる魔法使い様」
 夢にまで見たこの瞬間だった。リアムは生まれて初めて震えながら声を出す。

「信じておりました救世主様。我がウィストロ……」
「いやちょっと待って!お兄さんどなたですか?ここはどこですか?外人さんですよね、馬?うまぁ?本物?いや言葉……言葉が通じるのはなぜでしょう?日本語お上手なんですか?」
 リアムの言葉をさえぎって、女はパニックを起こしながらそう言った。
「ニホンゴ?」
「だってここ日本でしょう、えっとですね……あの、私は会社の中にいて、これからお昼で、その……あの、えーーっ!どんなドッキリ?モニタリング?いやいやスケール大きすぎ、私はただの普通の女ですから!」
 女は大きな声を出して立ち上がってうろたえる。

 違う。何か違う。
 嫌な予感でリアムの頭はガンガン鳴り響く。

 「救世主様ですよね」
 「誰が?私は宮本里奈《みやもと りな》株式会社 エースツーの総務課勤務。男に振られて仕事に生きる女で趣味は……どうでもいいからここはどこですか?あなたは誰?」
 「救世主ではないと?」
 「ただのいっぱんピープルです」
 「魔法は?」
 「そんなの使えません。使えるわけがないでしょう。早く戻して下さい!午後イチで大切な会議があるんです、いや冗談でしょう、太陽が沈んでるってこれどーゆーこと?会議終わった?」
 ギャーギャーと叫ぶ女を目にして、リアムの口から大きなため息が出る。救世主ではない。こいつはただの行き倒れだ。期待した自分が悪いのだが、この怒りをどうしてくれよう。
 リアムは岩をも砕く自慢の剣を取り出し、怒りに震える腕をなんとか制御しながら頭を抱える女に切っ先を向けた。