「ここからの景色が素晴らしいのです」
 シルフィンは笑顔になって、神殿の端まで私を行って崩れた柱に座る。だから私も真似してその場所へ行くと「うわぁ」
と、思わず声が出た。
 山を背にして、見事な葡萄畑が段々と広がっている。
 小さな人工的な雲が葡萄畑に雨を降らせている。あれも職人さんの魔法なのかな。
「お城のワインもここで生まれます」
「うん」膝をかかえたシルフィンと葡萄畑を見つめる。ふたりとも何も言わず、黙って見つめていた後、口を開いたのはシルフィンだった。
「私は森の奥で黒魔術を使う、呪術師の祖母に育てられました」
「うん」
 葡萄の葉が水を受けて、朝の光でキラキラ輝く。
「街の厄介者です。嫌われ者です。悪霊と通じて獣虫を操り、人の命も奪えます」
「うん」
「祖母は偉大なる呪術師でした。皆に嫌われている祖母でしたが、私には優しくて、愛情込めて育ててくれました。私は祖母から術を学びました。森の奥でふたりきりで幸せに暮らしてましたが、手に負えない獣虫に私が襲われそうになり、私をかばって祖母は亡くなりました」
 シルフィンは私に悲惨な過去を語りながら、まっすぐブレず葡萄畑を見つめていた。
「街の人達は怖ろしい厄介者がいなくなって喜びました。祖母の死により、森は焼かれました。家も焼かれました。私も疲れたので、命を絶って祖母の元へ行こうとしていたら、王様が現れて私を助けてくれました」
「アレックスが?」
「はい」そこでシルフィンは、やっとニッコリ私を笑って見てくれた。とても可愛らしい笑顔だった。
「いやらしい身分の私を抱きしめて『もう大丈夫だよ』と言って城に連れて行って、私を助けてくれました。王様には感謝しかありません。命の恩人です。王様の計らいで、街の人の役に立って溶け込もうとしてるけど、たまに……さっきのおばあさんみたいに許してくれない人もいます」
「そっか」
 そんな壮絶な過去があったなんて、私の苦労なんて苦労じゃないね。