朝から街は賑わっていた。
「迷子にならないで下さいね」年下のシルフィンに言われて「はい」と返事をしてキョロキョロしてしまう。
 青空の下、大きな石造りの道路の両脇に沢山のテントが張られ人が行き交う。
「邪魔だよ」大きな麻の袋を担いだ男性とぶつかりそうになってシルフィンに守られる。
「ありがとう。すごいね」
「朝が一番にぎやかなんです。街の人間はほどんど昼までに商売を終わらせて夕方まで静まり、夜になるとお酒を飲みに出るので、またにぎやかになります」
 なるほど、どこの世界も同じだ。

「しーるふぃーん」
「シルフィンだ!」
 あっという間に小さい子供達に囲まれてしまった。小学校低学年くらいかな、カバンを持っている。
「今日は移動魔法のテストなんだ。失敗しない魔法をかけて」
「僕も僕も!」
「それはズルだよー」
 口々に言う子供達が可愛らしい。囲まれたシルフィンは大げさに困った顔をして「うーん。魔法は無理だけど、上手にできるおまじないを教え下あげる」子供達の目線に合わせてそう言うと、子供達はゴクリと生唾を飲んでシルフィンの次の言葉を待っている。
「教室に行ったらみんなに教えてあげてね、目をつぶって大きく息を鼻から吸って口から吐くの。そして『大丈夫』って三回言うの。それがおまじない」
 シルフィンの説明は深呼吸だった。子供達は「ありがとうシルフィン」と真顔で聞いて走り去る。

「それがおまじない?」私が聞くと「はい。よく効きますよ」と、可愛い顔で私に言った。
 たしかに魔法でズルしてないし、いいおまじないだ。
 パン屋さん。果物屋さん。粉屋さん。珍しい野菜も売ってる。お団子みたいなお菓子屋さんもある。朝食の店なのか、若い男達がズラリとイスに座って食べている姿もあった。
「ワイン職人が多いです。これから仕事に行くひとり暮らしの男性たちです」
 あったかい湯気といい香りが歩いていても届く距離。素朴なミネストローネの香りがする。さっきお腹いっぱい食べたのに、またお腹が空いて来た。