「何もできなくて……ごめんなさい」言葉にすると悔しさ倍増。肩を落として溜め息をする私にアレックスは近寄り、そっと頬を撫でる。
「リナが気にする事はない。リアムは真面目なんだ。そして秋まで機嫌が悪い」
「秋まで?」
「いや……うん……そのうちゆっくり教えてあげよう」
「私は無力です」
「無力な人間などいないよ。誰もが大切な人間だから」
「リアムに怒られてばかりです。私が気に入らないのでしょうね」自虐的に笑ったら、アレックスは別の意味で笑ってた。
「逆だ。リアムはリナが好きなんだ」
「えーっ!ないないそれは絶対ないです」ありえないくらい恐ろしい冗談だ。あれだけ怖い顔で何度も見られて、怒られて呆れられて、邪魔者だと思ってるだろう。いい加減にしろって顔に書いてるもの。

「よくあるだろう。好きな子をいじめるって」
「それは子供です」
「リアムは純粋だから」意味わかんない。絶対違うそれ。
「今日だって、目も合わせてくれないし、ろくに返事もしてくれなかったんですよ」
 ジャックは爽やかに話をしてくれたのに、上司のリアムのあの態度はひどかった。そんなに嫌われてるなら仕方ないって思った寂しい朝食だった。すると、コツンと私の額にアレックスのデコピンが当たった。
「リナが綺麗で恥ずかしかったんだよ」
「え?」
「昨日の下着姿も色気があったけど、今日のそのドレスも可愛らしい。とても綺麗だ」
 下着姿じゃなくて事務服なんですよ。それよりもしそれが本当なら、完璧に小学生思考ですけど騎士団長様。難しい顔をしているとアレックスの手が私の腰に回り、身体を引き寄せられた。
「正装はさぞかし美しいだろう。舞踏会の相手をしてくれるかい?」
 エメラルドの瞳が目の前に迫り、色気のある唇がまた私の唇に……重なってたまるか!昨日もキスされたんだから学んでます。
「その手にはのりません」はっきり言ってアレックスの胸から飛び出し、私は部屋を出た。あぶないあぶない。本当にタラシだわ。油断ならない。
 行くあてもなく広い廊下を抜け、自分で掃除しているモップとぶつかりそうになりながら階段を降りる。掃除も魔法で勝手に道具が動くんだ。モップが動いて廊下を磨き、天井で雑巾がシャンデリアを磨いていた。

 掃除もできない。無能です私。