「どうして切るの?替わってって言ってたのに!私もワインのお礼を言いたかった」
 目の前でウロウロしていたから、絶対わかってくれてると思っていたのに。
「あっ……ごめん。すっかり忘れて切ってしまった」
「なんかさ、去年もそのパターンだったよね」
 思い出した。去年も電話がかかってきて、私がお礼を言いたいって言ってたのに、勇翔は自分の会話が終わったらすぐ切ってしまったのだった。
「私に話をさせたくないの?阿連さんって元カノとか?」
 ぷーっと頬をふくらませると、勇翔は笑って私の身体を抱きしめる。
「それは絶対ない、彼は女好きな友達だから。それに俺は里奈しか見えてない」
「勇翔」
「結婚記念日おめでとう。これからもよろしく」
「こちらこそ……よろしく」
 うまく丸め込まれてしまった。澄んだ目と綺麗な顔は出会った時から変わらない。その端整な顔立ちに、今でも見惚れる時がある私。
「家に戻って、友人を寝かせてからワインで乾杯しようか」
「うん。今日はどっちを開けようかな」
「嬉しそうだね」
「だって、このワインは本当に美味しくて……」
 なめらかに口を滑らせながら、なぜか次の言葉が浮かんできた。
「国で一番……いえ、この世で一番美味しいワインを造ってます……って、私が造っているわけじゃないんだけれど……」
 なんだろう?すごく可愛くて小柄な女の子がそう言ってた気がした……。
「どうした?」頬に手を当て悩む私に勇翔は聞く。
「いや……何か、可愛い女の子がワインを宣伝している図と声が急に見えてしまって……妙にリアルだったから」
「CMで見た気がする」
「あ、そっか。それだ」
 きっとそれだね。納得しました。ありがとう。
「出かけようか?ふたりきりの時間がもったいない」
「了解です旦那様」
「その前に……もう一度」
 キスが永遠に続きそう。
 愛する旦那様と過ごす幸せすぎる結婚記念日です。