送り状には私達の住所と阿連さんのフルネームだけ。住所も電話番号も載ってない。
 送られてきたのは赤と白の二本入りワイン。ラベルに書かれている文字はどちらかといえば象形文字で、おしゃれだけれど全く読めない。何語なんだろう。イラストは雲を突き破る高い塔を備えた豪華なお城。空には緑のドラゴンが飛んでいた。
 阿連さんは夫の大学時代からの友達で、世界中を飛び回る実業家らしい。この阿連さんが送ってくれるワインがすごく美味しくて、ネットで調べて買わせてもらおうと思うけどネットになぜか引っ掛からない。この時代にこんな美味しいワインがネットに引っ掛からないなんて、すごく不思議だった。夫の勇翔に聞くと『限定生産とか?色々聞くと面倒になって送ってこなくなるタイプの変わり者だから、別にいいだろう』って流されてしまった。

 阿連玖須さん……変わった名前だけじゃなくて、本人も変わっているのか。
 食卓テーブルでワインを眺めていたら、玄関から慌ただしく夫が帰ってきた。
「ごめん遅くなった」
 仕事を切り上げて急いで帰ってきてくれたのね。息が切れてるよ。そのまま私の背中にまわって頬にキスをする。唇が冷たくて気持ちいい。
「友人(ゆうと)は?泣かなかった?」
「大好きなおばあちゃんのお迎えだもん。喜んで出かけたよ。あ、そういえばお義父さんも一緒だった」
「午後から社長は会社早退してた」
 私達は顔を合わせて微笑み、今度は唇に彼がキスをする。
 三回目の結婚記念日。今日は1歳の息子を彼のご両親に預けて、ふたりっきりのディナーです。
 
 夫はテーブルに目線を移し、ワインを見て嬉しそうな顔をした。
「今年も送ってきたんだ」
「うん。お礼状を書きたいけど、住所がいつもの通り載ってなくて」
「電話するからいいよ」
「私もお礼を言いたいから、電話する時に替わってくれる?」
「うん……あ、もしかしたら……」
 ネクタイを緩めてスーツの内ポケットから彼はスマホを取り出した。そして「ビンゴ」と私に言ってから電話に出る。阿連さんだ。すごいタイミング。

「アレックス?あぁ……届いたよ」
 あれん くす。勇翔はフルネームで彼の名を呼び電話に出てる。フルネームが彼のあだ名みたいなものなのかな?電話越しに音をたどると横文字ような名前に聞こえる。
「ん?ああ、こっちは奥さんも元気で子供も元気。そっちは変わりないか?えっ?結婚?驚いたよ。式には出たかったけど残念だ。それはおめでとう」
 阿連さん結婚するの?耳を大きくして会話を聞いてしまう。
「へぇ……すごいね。とうとうファミレスまで……劇場が増えるのはいい事だけど、地下劇場にこだわらなくてもいいんじゃないか?えっ?それも?」
 すごく楽しそうに会話をしている。大切な友達なんだね。早く私も電話に出たくてウズウズしてしまう。
「うん。そう、これから二人きりでディナー……お前も元気で、みんなによろしく」
 勇翔はそう言い、なんとあっさりと電話を切ってしまった。